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俺が満足した頃にはチョコレートの箱が一箱空になり、美玲は完全にグッタリしていた。こんなにキスをしたのは初めてだ。



「美玲ってキスに弱いよね。」



ずっと思っていたことを今更言うと、美玲はそっぽを向いた。その顔は相変わらず真っ赤だ。



「元彼があんまりしてくれなかったから…あ。」



言ってから我に返ったようだ。美玲が元彼のことをこんな風に口にしたのは初めてだ。口にした美玲自身も戸惑っているようで俺と目を合わせようとしない。俺としては好きな人のことなら何でも知りたいが、美玲が言いたくないのなら話は別だ。

沈黙で気まずくなる前にその唇を塞いでしまおうと顎を持ち上げると目が合った。あ、話したいやつだ。そう気づいてそのまま美玲が言葉を紡ぐのを待つことにした。



「私、男運ないんだ。」



少しの沈黙の後、美玲は苦笑して言った。



「鬱だった人もいたし、浮気されたこともあるし、ヒモみたいになっちゃった人もいたし、最後の人はモラハラだったの。」

「それはもはや男運なのか…?」

「ふふ、見る目がないとも言うよね。」



まさか美玲の男性遍歴がそんなことになっていようとは。確かに美玲は面倒見がいい方だし、そこに漬け込む男がいるのも頷ける。だが特に最後のは…。



「それで私鬱になっちゃって、たまに過呼吸になるようになっちゃって…。もうほとんど気にならないくらい良くなったの。でも前に元彼と同じ香水つけてる人がいて、過呼吸出ちゃって…。あの時ちゃんと言えなくてごめんね。」

「いや…。」



やっぱりあのときの過呼吸は香水が原因だったのか。数ヶ月前のことを思い出す。あの時は出勤途中の人混みの中ですれ違ったんだったか。…あれっぽっちで過呼吸になるなんて、相手のモラハラも美玲の状態も相当酷かったに違いない。



「だから今元彼の話がスルッと出てきてびっくりしちゃった。ちゃんと過去は過去になるんだね。」



そう笑う美玲が眩しくて俺は目を細めた。やっぱり俺が惚れた女は強くて逞しい女だ。そんなこと笑顔で言えるか? ギュッと美玲を強く抱き締める。



「かっこいい。」

「…ありがとう。」

「元気になってよかった。」

「ありがとう。」



本当に、元気になってくれてよかった。そう思うと同時にふと思った。



「…俺も、過去になるのかな。」

「え?」

「あ…。」



思わず零れた本音だった。あと2週間でこの関係が終わってしまうかもしれない、そんな不安から出た言葉だ。美玲は困ったように笑って、いつものように俺の頬を撫でた。



「まだあと2週間あるよ。」



そう言って手を添えてキスをする。狡い。



「その先は?」

「……。」



美玲はそれ以上何も言わずにただ何度も俺に口付けをするのだった。

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