第2話:彼女は色白である。

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翌朝目を覚ますと俺の腕の中ですやすや眠る美玲がいた。朝一番の光景が幸せすぎて、二度寝するのも起きるのも惜しくてただその寝顔を眺める。チラリと時計を見れば6時過ぎを指していた。30分くらいは余裕がある。美玲と過ごした晩はこの時間が好きでアラームより先に起きるように心がけている。起きれたら、の話だが。

布団からはみ出た肩がカーテンが閉まった薄暗い部屋の中でも分かる程白い。美玲は色白だ。色白というか白すぎる。そんな彼女の肌にキスマークなんて付けようものならとんでもなく映えるんだろうな。…セフレの分際で何を考えているんだ俺は。そっと布団をかけ直してその肩を閉まった。



「ん…。」



あ、やば。そう思った時にはすでに美玲の目が薄っすら開いていた。美玲はめちゃくちゃ寝起きが良い。アラームも1秒くらいで止めて起きるし、先に起きて寝顔に触れようものなら目を覚ましてしまう。そこまでいくともはや繊細すぎる気もするが、本人は体内時計がしっかりしているからアラームの時間が近付くと意識が浮上してくるだけだと言う。

何やかんや言ったが俺は美玲より先に起きた場合、二度寝するかただその寝顔を眺める他ないのだ。とはいえ布団をかけ直しただけで起きるとは…。



「おはよう。」

「おはよ…。」



まだ起きたばかりで目があまり見えていないらしく、ぽやぽやした顔で俺をじっと見ている。かと思えば甘えるように胸元に擦り寄ってくる。朝からよろしくない。可愛すぎる。そんな美玲をここぞとばかりに抱き締めると心の中が満たされていく。このまま仕事なんてほっぽり出したい。



「何時?」

「まだ6時過ぎ。」

「ん…。」



アラームより早く起きるつもりはないらしい美玲は俺の体に腕を回すとグッと頭を押しつけた。信じられるか? これで付き合ってないんだぞ? さすがに自分が少し不憫に思えるが、俺の気持ちなんて知らない美玲からすれば関係のないことだ。

なんで彼氏を作らないのか。なんで恋愛が面倒だと言うのか。それは初めて身体を繋げた日に少し聞いた。だから今はこうして腕の中に美玲を抱いていられるだけでいい。そう自分に言い聞かせるのがいつの間にか習慣になりつつあった。

鳴り響いたアラームを止めると仕方ないと体を起こした。その過程でくっついていた美玲は離れていた。



「美玲さん、朝ご飯いります?」

「大丈夫です、ありがとう…。」

「ん。」



まだゴロゴロしている美玲の頭を一撫でして先に布団から出た。美玲の目は虚ろではあるが開いているし、二度寝の心配はないだろう。



ドンッと変な音がしたのは朝食を摂り終えてそろそろ美玲に声をかけた方がいいかなんて思案していた時だった。



「美玲!?」



驚いて寝室の扉を開けると床に座り込んでベッドにもたれかかる美玲がいた。慌てて駆け寄ると美玲は目を閉じて眉間に手を当てていた。



「どうした?」

「大丈夫…。ただの立ち眩み…。」



そう言う声はかなり固くて余裕がない。



「吐く?」

「いや…。」



薄っすらと目を開けるものの、その表情は険しいままだ。そっと頬や首に触れる。熱はないようだ。となるとどうしていいかサッパリ分からない。困惑していると美玲が立ち上がる素振りを見せたのでその体を支えた。



「ありがとう…。」



ソファに移動した後やっと美玲はその顔に笑みを浮かべた。



「大丈夫?」

「うん、ただの貧血。」

「貧血か…。」



美玲の前にしゃがみ込んで美玲の手を両手で握り締めた。そんな俺を安心させるように美玲は優しく笑った。けれどその顔はびっくりする程血の気がなくて真っ白だった。色白がさらに真っ白だ。



「びっくりしたよね、ごめんね。」

「いや…。ってか貧血なら朝ご飯…。」

「ごめん、気持ち悪くて…。」

「そっか…。」



貧血なんて無縁で生きてきてしまったので、こういうときどうしていいか分からない。そもそも症状がよく分からない。ドラマとかで見るぶっ倒れちゃうあれか…?

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