第2話 レンタルした日の晩。

LGBTという概念がある事には理解していたし、私自身が、レズやゲイ 両性愛者なんかに偏見を抱いているわけでもない。それは、生まれ持った素質なのだし、否定しようとは思えない。


他とは違う個性があるだけ、私はその人を羨ましいという観点でしかなかった。


しかし、自身がそうである とは、認めるのに抵抗を感じていた。勿論、ほかの人が幾らマイノリティだとしても それは受け入れられる。雑誌を見ても、Webサイトを漁っても、そういう人種は沢山居るのが分かる。


「向夏ー? ご飯よ 降りて来なさい」


もし、自身がレズだとして お母さんやお父さんには言いたくもないし、多分 平然とした表情カオで嘘を吐く。私は、少しだけ 嘘を吐くのには慣れている。


「うんー もうすぐ行くー」


知られたくないと思ってしまうのは、偏見や、嫌悪感があるからだろうか。


自分はLGBT に、該当しない!

なんて、強くは言い張れないのが今の私だ。レンタル彼女を利用して、女の子とデートを楽しんでいるし、私は少しだけ 桜木さんに 好意を抱いてしまってもいる。

それが、恋的な感情なのかは知らない。


「あ、今日 ハンバーグ? やった。」

「好物を作ったんだから、勉強もちゃんとしなさいよ」


お母さんの一言で思い出す、そういえば最近はレンタル彼女という言葉だけを調べていたり、恋や愛とは何か?とサイトに検索をかけるばかりで、あまり勉強は出来ていない。


(やばっ。 お小遣い無しはまずい… )


椅子に座り、机に並べられたお皿に向かい、お箸を使って ハンバーグを一口サイズにしてから、口元まで運ぶ。そして、私はお母さんにこう言った。


「大丈夫だよ。 ちゃんと勉強してるよ!」


当然のように嘘だ。そうでもしなければ、お小遣い無しになるだけだし、何よりも レンタル彼女を通して桜木さんに会えなくなってしまう。それは、嫌すぎる。


とはいえ、私も高校生なのだし バイトは出来るけれど、面接に行っても、受かった事がない。というか、緊張してあまり上手く喋れないし。落ちる原因も、殆どが自分にあるのだと思う。


「ごちそうさまー。」


お箸やお皿を流しに置き、部屋に戻ろうとした私に お母さんは喋りかける。


「そういえば 向夏、来週テストでしょ? 勉強してるの?」


言われてみれば、曜日を確認しても、確かにテストの日だ。……って、それはかなり。


(あーーーー やばいなあ。)


しかし、もうレンタル彼女を予約してしまっているし、明日のレンタルを最後に、一応は勉強に励もう。勉強なんかより、レンタル彼女を優先はしたくても、テストの点が酷いのは、お母さんを怒らせてしまう。


(よし。 明日で最後。 )



「やっぱり 桜木さん可愛いなあ。」


レンタル彼女サービス サイトに載っていた桜木さんの写真を眺めるだけでも、十分満足はできる。けれど、直接拝んだ方が美しいのは確かだ。


というか、レンタル彼女は LINEなどの交換は許されていないのだろうか。そう思って、検索をかけてみたけれど やはり、ダメだと決まっているらしい。けど… 女の子同士でもかなあ。


同性という盾をフル活用出来るのなら、LINE交換なんてのもしたい。そうしたら、レンタルを出来ない勉強の期間だとしても、メッセージ越しでもやり取りは出来る。


明日、言ってみようかな。そう思うと、楽しみで何だか興奮してきた。布団を覆いかぶり、右に左に、ゴロゴロと転がる。その激しい振動から、一階でテレビを見ていたお父さんには こらー!何しとんだー!って怒鳴られた。


(そういえば、他はどんな子が居るんだろ)


今思えば、私は桜木さんに一目惚れしている状態。他の子を見てもいなかった。それでも、私は桜木さんに一筋だとは思うけれど、どういう種類が居るのかは確かめたかった。


妹系… 年下系… ロリ系…

お姉さん系…… 教師系……

清楚… 人見知り… 明るい子…


その種類は多様だ。ただ、桜木さんは何系に分類されるのだろうと見に行くと、特に何も書かれてはいなかった。つまり、何系にも該当はしないのだろうか?



容姿端麗 そして、特徴のある女の子が多く居る。それもそのはずだが、そうでないと、指名なんてされないだろうし、顔が特別可愛くない子であっても、運動の出来る女の人や、アニメ声の様な女の子は人気が出るそうで、様々な人が居る。


…けど、一時間 七千円は妥当なのだろうか?

いや! 桜木さんには釣り合ってるけどっ。


どうしてか、桜木さんとの一時間には一万円の価値か、それ以上にあるとは思っている。



ガチャ。

戸が開く音と、お母さんの足音。


「向夏、もう寝なさい」

「はーい」


私は、明日に備えるためにと、部屋の明かりを消して、肩まで布団をかぶる。

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