第4話 クラスメイト② 市原 楓

「ごめ~ん。由佳が来る前に、箒がけしておくつもりだったんだけど」


 そういうとかえでは担いでいた竹箒で御社おやしろの前を掃き始めた。

 といっても、少しばかり落ちている枯葉を脇に掃き寄せただけだが。


 楓の家は代々、苗蘇神社びょうそじんじゃ宮司ぐうじを務めていて、当代の宮司(神社の代表)は楓の祖父が務めていた。

 楓の父親は禰宜ねぎ(神社の職員)で、楓自身も出仕しゅっし(見習い)の立場だった。


「はい! お掃除終わり!」


「……雑すぎる」


 狗巻いぬまきは、本当にこれだけでいいのかと訝しんだ。


「いいのよ。どうせお参りに来るのは由佳くらいなんだから」


「それがとても残念なのよね。(神様はこんなにも可愛いのに……)」


 由佳は二言目は声には出さず、心の中で残念がった。


「それでも毎日掃除をするなんて、見習いも大変だな」


「何よ、狗巻くん。いいの。私は好きでやってるんだから」


「でも由佳しか参拝客がいないなら、毎日掃除しなくてもよくないか?」


「これも修行の一つなの!

 そ、それに私は由佳が毎日来てくれるなら……、由佳の為に毎日掃除をしたいの」


「私の為に?」


「そ、そうよ。由佳が毎日来てくれるから頑張れるっていうか───

 あっ! 好きでやってるっていうのは、それはその……、そういう意味じゃなくて───」


 楓は急に顔を赤らめてモジモジしだした。


「でも今日は由佳より来るのが遅かったけどな」


「うるさいわね~! 今朝はちょっと寝坊しただけよ!」


 痛いところを突かれて楓は箒を振り上げた。


「危ない。箒を振り回すな」


 楓が箒を振り回したが、しかし運動神経の良い狗巻は難なくひらりひらりとかわした。

 そんな二人を見て由佳は腹を抱えて大笑いした。


「それよりそろそろ学校にいこう」


 狗巻にそういわれて由佳と楓ははっとした。


「ほんとだ! もうこんな時間!」


「由佳! 狗巻くん! 急ごう!」


「おい。箒は置いていっていいのか?」


「いいの! どうせ帰りも掃除するんだし!」


 乱暴に箒を脇に放り投げた楓に手を引かれ、由佳と狗巻は小径を抜けて通学路に戻ると、高校生の列を追いかけて学校へと向かった。

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