渋谷少女A続編・山倉タクシー

多谷昇太

第一章 山倉タクシー

私は高齢者…?

 なんか一段落がついたようなほっかりとした気分になっている。時刻は7時か、8時頃だろうか。もちろん夜のだが。この時刻からして当然のことながら人は、毎日の勤めを終えて、やれやれとした気分になっているのだろうななどと思うだろうが、さにあらず。いま現在私は仕事に就いていないし、第一この私の風貌を見ればそれも当たり前と、こちらも人はそう思うだろう。頭は真っ白で(もっとも始終バケットハットを被っているから、うなじかもみ上げしか見えないが)背はちぢこまり、年中うなだれたような猫背姿はどこからどう見てもいっぱしの老人なのだから…。つまり仕事をリタイアした人間にしか見えないだろうということだ。などと…ぐだぐだ云ってないで、自分のプロフィールを述べた方が早かろう。私は年は69才で独り身の無職男だ。妻に死なれたとか何とかいうのではなく、そもそも妻帯などしたことがない。高齢者の比率が全人口の30%近くとなり、世界一の(ダントツの)老人大国となった日本では果してこの私が高齢者の部類に入るのかどうか定かではない。実質的にはまだ就業人口の内に入るのではないかとさえ思う。アメリカの属国的な我が国政府―分けても3期目に入った自民党安倍内閣―のお陰で、もう何十年目になるのか分からなくなるほどの、超長期デフレーション下の我が国では、私のような〝高齢者にもなれない〟中途半端な御仁が今日日ゴマンといることだろう。一生を民間の安定企業か公務員で過ごし、裕福な老後をいま過ごしている連中から見れば私のような者はいい蔑みの対象だし、一方いまだ現役真っ只中で、実年以下の中年や若い世代から見ても私などは鼻摘まみ者か笑われ者になるのかも知れない。果して俗に云う、「ロクなもんじゃない」的な存在になるのだろうか?この私は。名を田中茂平というのだが…。

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