第4話 換金(1)
「そのカードがあれば、いつでも依頼を受けることが出来ます。そして、依頼についての説明をしたいと思うので、一度受付の方に戻りましょうか」
貰ったカードをじっと見ていたら、お姉さんにそう言われる。あ、そうだ。これで稼げるようになるんだもんね。頑張ったかいあったなぁ…。
「あ、はい」
お姉さんと共に受付の方へ歩く。クロはもちろん私の腕の中。動く気はない。
試験頑張ったし、今回は全然許せる。というか、猫のおかげでこうして甘えられるのうらやましいぞ、クロ。
「…それでは依頼についての説明を始めさせていただきますね」
「はい、お願いします」
依頼書が張られている掲示板の前でお姉さんが足を止める。私もそれに合わせて足を止めて、お姉さんの方を見た。
「まず、この依頼書には[適正ランク]が書かれています。これは、依頼をこなした量、達成率、本人たちの実力を加味してつけられたランクごとに分けられるようになっています。言ってしまえば、危険度と同じものですね」
「危険度…」
一枚、ペラっとはがした依頼書を手渡し、お姉さんは説明を始めた。
「そうですね。そして、ギルドメンバーにはAからEのランクが振り分けられています。Aが上、Eが下です。また、最初は5つの依頼を達成するまで全員が[初心者]ランクとなります。その後、その時の実力に合わせ、最大でCランクが付与され、本格的な冒険者としての活動が始まる。と言った流れになります。ここまでは良いですか?」
「大丈夫です」
うんうんと聞いていたら、お姉さんが確認をしてくれる。大丈夫、なんとなく理解できたから。
「では続けますね。自分のランクに見合った依頼以外については受付時に説明が入るので、これ違うってなっても安心してください。そして、自分のランク以外においしいものがあれば受けたい、って人も多くいるんです」
「そういう時はどうなるんですか?」
見合わないランクの依頼はストップ、もしくはいけると判断された場合は忠告の上で受けられるのかな。まぁ、基本はストップなんだろうけど。
そして、自分のランク以外の物はどこまで受けられるのか。それは純粋に気になる。
「一つ上のランクであれば、説明させてもらったうえ、同意を得れた時点で受けることが可能になります。そして、自分のランクより下の物に関しても同様に受付が良いと判断したときに受けることが出来るようになっています。基本は自分のランクに見合ったものを受けてもらうことが大前提になるので、そこは注意してくださいね」
自分のランクより一つ上までなら受けられるって感じかな。それ以上となれば、確かに危険と隣り合わせになるもんね。むやみやたらに死人を増やされても困るだろうし。
「あ、はい。分かりました」
一応首を縦に振って、私はそう言う。なんだか、それを待っている気がしたから。
そこで私と一緒に依頼書を見ていたクロが顔を上げた。そして、口を開く。
「…ところで、依頼にはどういう種類があるんだ…?制限を付けられるようになっているんだろう?」
「そうですね。そこについても説明します」
私の持っている依頼書を指さしながら、クロはそんな質問をする。お姉さんはにこっと笑って説明を始めてくれた。元々説明する予定ではあっただろうけど、クロ的には最低限の情報以外はいらないんだろうなぁ…。
「まず、見てもらっている依頼は基本となる討伐依頼です。魔物がはびこり、この街もあの壁を越えた先は危険と隣り合わせとなります。また、魔物の強さによって受けられるランクを決めていますので、そこは理解してもらえると」
「はい」
お姉さんはそう言って、新しい依頼書を手渡してくるとそのまま説明を続ける。
「そして、後おおざっぱに区分できるものとしては、薬草などの採取依頼。それから護衛依頼。その他、主に低ランクが受けられるお手伝い系の依頼となります」
渡された依頼はお手伝いタイプの物になるのかな。お掃除って書いてあるし。
「薬草依頼やお手伝いの依頼については、一応初心者とEランクのみに絞ってあります。なので、Dランクに上がった時点で受ける量に制限がかかります。低ランクの方々のランクアップにつなげるための依頼でもあるので。もちろん、数が必要であったり間に合わない場合であったりすれば、高ランクの冒険者に応援を出す。なんてこともありますけどね」
おー、比較的安全なものを回すことで平和にランク上げができる構図が出来ているんだ。いいね、やりやすそう。
それに、パッと見て貢献しているのが分かりやすいはず。本で読んだけど、薬草を薬にできる技術は今もなお重宝されている。それと、どうしても回復魔法が貴重らしいんだよね。使える人が少ないんだとか。…私には関係ないけど。
「なるほど。それは良いね、クロ」
「俺を当てにするなよ、主。だが、手っ取り早く稼げる安全な仕事があると分かっただけでもでかいな」
「クロらしいね。気持ちは分かるけど」
クロとうんうんと納得する私。クロの索敵能力は高かったはずだから、薬草の依頼はむしろ積極的に受けてもいいかな。もし余ったりとかあれば自分で薬作ってみるのもありなわけだし。
「…仲が良いんですね、お2人は。召喚士と召喚獣はどうしても召喚獣を使うという関係性が多いので、驚きました」
「クロはかっこいいし、頼りになる存在なので」
私たちがそんなやり取りしてのほほんとしていると、お姉さんが少しわざとらしい咳ばらいをしてそう言ってきた。
まぁ、召喚獣は自分の代わりに戦ってくれたり身を守ってもらったり…。結構補佐とかそう言う役割で見ることも少なくない。実際、契約する際に主を守るためのいやーなものも混ざるからね。クロとはそういう契約にならないように、いつも友だちだって言ってたっけ。考えが少しでも変わるように。
「ほほえましいです。…っと、説明は以上になります。何か質問はありますか?」
表情をふわっと崩して微笑んだお姉さんは、そう聞いてくる。私は特に疑問が無いから、クロの方を見た。
「私は特にないです。クロは?」
「…じゃあ、一つだけ。ランクの上がり方はどういう感じになっているんだ?」
クロは私の方を見た後、お姉さんの方に視線を移し一つ質問をした。あ、確かに具体的な条件とかは聞かなかった気がする。
「…あ、説明を忘れていましたね。[初心者]から上がるのは5つ依頼を達成するのが条件だとは話しましたが…。そこから先は、ランクに応じた達成数があり、それを達成したのちに先ほどのような試験を設けてあげていく形になります」
「なるほど。依頼を達成した実績と本人の実力が認められる形か。なら、主には負担にならずに済むな」
お姉さんはそうだったと言って、説明をしてくれる。そして、どこか安心した様子のクロ。なぜ。結構大変そうな感じがしたけど?
「…クロは私をなんだと思って…。まぁ、良いや」
「他に質問が無ければ、このまま依頼を受けていくことが出来ますよ」
気を取り直したところでお姉さんからそう提案される。…依頼を受けてみるのも魅力的だけど…。そう言えば、ここに来た目的ってなんだっけ…。なんか、これだけじゃない目的で来たような…?
「…それは良いが、ここは換金もできるか?」
「はい。基本的に魔物であったり金目のものであったりすれば換金できます。していきますか?」
あ、換金。そうだった、露店を堪能したくてここに来たんだった。
「あぁ、頼もう。それと、入会金とかはないのか?」
「ありますが、最初の依頼から天引きするシステムなので気にしなくて大丈夫ですよ」
受付の方に歩きながらクロとお姉さんはそんなやり取りをする。良いシステム。それなら、お金の事あんまり気にせずに済むってことだもんね。…でも、最初は複数まとめてやった方がお金手に入るってことだよね。受けるときは気を付けよっと。
「…では換金に移りましょうか。と、その前に自己紹介していませんでしたね。本日よりお2人の担当をさせていただきます、レイン・アルカナと言います。何かあれば私をお呼びくださいね。それと、厄介な連中に絡まれた際にも私の名前を使ってください。こう見えて、私、ここの副ギルドマスターなので」
「えっ」
受付の最初に見た位置に戻ったお姉さんはそう言って、挨拶をしてくれる。レインさん、ね。…じゃない!
「…やはり上の者だったか。試験の時、やたらと距離が近いように見えたのは気のせいではないということだな」
「分かってしまいましたか。ですが、普段からこうして新人さんの受付には立っているので、気兼ねなく接してください。ということで、換金する物、お預かりします」
レインさんはクロの言葉に残念そうにそう言う。私は分からなかったなぁ…。と思いつつ、換金するために色々と準備を始めるレインさんを見てクロを見る。
「おう。主、仕舞っているものを一通り出してくれ」
「…あ、うん。出しますね」
クロはレインさんにそう言って私の腕をつんつんする。催促されているのが分かった私は慌てて机の上に手を出して、魔法を一つ使う。
「〈アイテムボックス〉」
収納魔法。空間魔法の一種とも呼ばれているもので、本人の魔力量によって入る量や時間の流れ方が変わる不可思議な魔法。もちろん、使える人は一握りだから回復魔法と同等レベルの希少性のある魔法だったりするはず。勉強しているときにそういうものだって覚えたもん。
「えっと、貰ったアクセサリーを…」
私は欲しい物を指定して、暗闇に手を入れる。こうしないと人によっては目当ての物が出てこない事態に発展するからね。乱雑に入れちゃう人とか。気を付けないといけないよ、収納魔法を使う時は。
「これで、全部…だと思います。レインさん、換金お願いします」
机に一通り首飾りや指輪など、どこでも換金できそうな宝石のついた物を出してレインさんに声をかける。
理解あるメイドが、私へのプレゼントを渡したがっていた一部のメイドから預かっていたって言ってたよね。こういう使い方するの申し訳ないけど、『ぜひ、旅の資金にしてくださいと皆からの伝言です』って渡すときに言われたから気にしないでおこうってクロと決めたんだよね。
「わ、分かりました。換金してきますので、少々お待ちください」
「はーい。あそこの席で待ってますね」
「何かあればすぐ私の名前を呼んでください。それでは」
レインさんが奥の部屋に行くということで、私は一階に用意されている椅子へ座る。窓辺でのんびりできる。ちなみにレインさんとそんなやり取りを他の冒険者さんたちに見られていたらしく、誰も近寄ってこない。
レインさんの心配は杞憂に終わりそうだけどね。ちゃんと副ギルドマスターの威厳はあるみたいで、私はクロとゆっくり換金が終わるのを待つ。
「…にしても、触れなかったね。収納魔法のこと。この世界、今までいたところと同じ感じがしたんだけど…。ちょっとは違う部分があるのかなぁ」
「どうだろうな。だが、動揺している感じもあったからもしかしたら聞いてこないだけという可能性もある。後、主のステータスを見ているからこそ触れてこなかったのかもな」
「あー、全属性の適性の…。じゃ、いいか。あんまり気にしすぎてもあれだしね」
机の上で毛づくろいするクロとそんな話をする。レインさん以外にも依頼を受注していた冒険者さんたちもあの場にはいた。けど、誰も聞こうとしなかったし…。あ、それはレインさんがいたのも影響しているかな。
「まぁ、魔法の価値観とかについては活動していくうちに色々と知れるだろう。この国の図書館に行って調べるのも一つの手だしな。まだ一日目だ。ゆっくりと馴染んでいけばいい。しばらくは資金稼ぎしないといけないし」
表情が硬くなっていたのか、クロにそう言われる。ま、そっか。今はこの国で生きていかないといけないしね。元の国、もとい家に戻る気なんてさらさらないし。
「ありがと、クロ。…あ、あの姿はレインさんじゃない?換金終わったのかな」
クロを一通り撫でまわしてすっきりした私は、そのまま視線を動かしてレインさんらしき姿を視界に収める。あ、換金終わったみたい。だけど…。
「隣にもう一人いるな。なんか話し合ってるようにも見えるぞ」
「だねー。あのアクセサリーに何かあったかなー」
「呑気だな。だが、面倒なことになるかもしれん」
クロにそう言われ、私はそんな言葉を口にする。いや、実際こっちの常識が分からないから、何があっても私たちに反論したり隠したりなんて高度なこと出来ないからなぁ…。
「待とっか、来るの」
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