34.転生者の影響
魔王の好物が分かった所でどうしたらいい?個人の好みだろ。仲間がドラゴンの肉をどう食べているか、美味しそうに食べているかを観察したらいいのか?
ドラゴンの肉はこの世界における最高級のブランドお肉だ。普通に美味しいから俺でも好きだぞ。何の役に立たない情報じゃないか!
「他にないか?」
「魔王は字が綺麗だったとか」
「字が綺麗なのを何故知ってる?」
「魔王と魔族のやり取りは文だったようですね。どこを襲えだとかそういう命令が書かれた紙が発見されたそうです」
「対面する事を嫌ったのか?」
「かなり用心深かったようです。配下の魔族、四天王ですら魔王の居場所は分からなかったみたいなので」
なるほど。魔王は字が綺麗なのか。
トラさんとサーシャはどうだったかな?2人とも字は綺麗だ。トラさんは絵を描いたりするのも好きな人だ。手先は器用なんだよなあの人。名家の出身だから何かと書類を書く事があったから必然と字は綺麗になったと言っていた。
サーシャは魔法の研究をしていたから字は綺麗に書くよう意識していたらしい。師のマクスウェルに見せたり、他の学者に見てもらう事もあったから字が汚いと小言が煩いとか。
これも魔王探しには使えないな。
「先代勇者は魔王を見つけていたよな? どうやって見つけたんだ?」
「5代目勇者ハロルドは直感が優れた者だったみたいです。『俺の第六感がここに魔王がいると伝えている。
「……………」
「今までも勇者の直感で四天王を見つけていたので仲間は勇者の言うことを疑わなかったようです。
それにしても直感で見つけるとは凄いですね!」
「そうだな」
───勇者ハロルドは同郷の人な気がする。この世界に
「魔王の情報は他にないか?」
「料理を作るのが好きみたいです。四天王との文のやり取りで判明してますよ」
「他には?」
「これが最後の情報ですね。魔王はお酒が嫌いだったようですよ」
情報が少ないのは仕方ない。だが情報が随分と偏っている気がする。どこで仕入れた情報だ?
魔王が使う魔法や戦闘スタイルが分かるのが理想だが、望みすぎだな。
料理を作るのが好きなのは正直どうでもいい。お酒が嫌い? 俺が魔王と疑っているサーシャとトラさんはお酒好きだ。
ノエルもお酒は飲める。お酒を飲めないのはダルとエクレアだ。ダルは身内に止められているから飲めないと言っていた。飲みたいと言ったが絶対にダメだと煩く言われたらしい。
酔って口が軽くなるのを王様が恐れたのだと思う。必死だな
エクレアは下戸だったか?前に1口飲んで意識を失っていた。体質的に受け付けないようだ。
お酒が嫌いという情報で俺の考えが何もかもぶち壊された気がする。サーシャとトラさんの2人に絞ったのは間違いか? お酒が飲めないという意味ならエクレアとダルで見るべきか? いや、食べ物の好き嫌いは変えることが可能だ。後から好きになる場合もある。
変に考えすぎるな。まずはこの情報の出処を知りたい。デュランダルはレグ遺跡に500年刺さっていたから、5代目魔王について知る機会は俺と旅した5年間だけの筈だ。だが今の情報を俺は知らなかった。どこで知った?
「デュランダル、今の情報はどこで知ったんだ?」
「アルカディア王国の図書館でマスターが調べ物をしていたのを覚えていますか?
四天王について調べていたと思います」
「あぁ、覚えている。だがあの図書館にある本には四天王について詳しく書かれた物はなかった。5代目魔王についてもだ」
「本ではなく、学者たちの会話です」
「会話?」
「はい。あの図書館でマスターが調べ物をしている時に5代目魔王について討論している2人の学者がいました。前に言ったと思いますが、私は耳が良いので聞き取れました!」
耳ってどこだよって聞くのは野暮だな。アルカディア王国の図書館か…、あぁ思い出した。会話の内容までは覚えてないが、本を読んでいる時に口論を始めて鬱陶しいと感じた覚えがある。直ぐに図書館の館長に締め出されていたな。
あの時の2人が学者か。デュランダルの言葉通りなら5代目魔王について調べている筈だ。有益な情報を聞ける可能性がある。
「デュランダル、その時の学者の名前を知っているか?」
「1人だけ分かります。レイヴン学長と呼ばれていました」
「名前は聞いた事がないが、学長という立場なら調べれば出てくるか」
「恐らくは」
アルカディア王国に行く機会があれば訪ねてみるか? それまでに魔王が誰か判明したら必要ないが、選択肢の1つとしてはありだな。
一先ず分かった情報は『ドラゴンの肉が好き。字が綺麗。料理を作るのが好き。お酒嫌い』か。うん、何も分からん。
魔王についてはまぁいいか。
「勇者ハロルドについても学者からか?」
「学者からですね。勇者ハロルドが口にした『
「そうか」
多分調べても出てこないと思う。その力があるとしてもこの世界のものではないだろう。
時間の無駄だろ。早くやめた方がいい。
「勇者ハロルドは神ミラベルと関わりがあったりしないか?」
「関わりはあったと思います。初代魔王と前のマスター、勇者ハロルドの口から神ミラベルの名前が出ていたので何かしら共通点があるんじゃないかと研究しているようでした」
「そうか」
「マスターももしかして神ミラベルと関わりがあるのですか?」
「デュランダルの想像通りだよ」
初代魔王とタケシさんに続いて勇者ハロルドも転生者のようだな。少なくとも3人がこの世界に来てる。ミラベルに聞きたい事が増える一方だ。エクレアについても聞きたい。
次に会った時に全部聞けるだろうか?
相談したい事も多いし早くミラベルに会いたいが、こちらからはどうしようもないからな。
「神ミラベルと言えば四天王の1人とも関わりがあったと思いますよ!」
「四天王も?」
思っていたより多いぞ。四天王もか。
これまでの歴史で四天王は何人か勇者パーティーに倒されて変わっている。変わっていないのは『
シルヴィは不死だから殺せなかった。ドレイクは単純に強いのと、不利と分かると撤退するからだ。その判断が的確で勇者パーティーはドレイクを討ち取れていない。
「『校長』のコバヤシという四天王がミラベルと関わっていた筈です」
確実に転生者だ。そして日本人だと思う。
なんで校長を名乗っているんだ?
小林校長先生と呼んだ方がいいだろうか。
「コバヤシは既に亡くなっているのか?」
「亡くなっていますね。初代魔王の四天王でした。魔族が魔法を取得するのに貢献したようですね。コバヤシは教えるのが何故か非常に上手かったようです」
先生だからだろう。
「コバヤシがいたから今の魔族があるのか」
「そうなりますね」
転生者が悪いとは言わない。根本的な原因は教会が信仰する神だ。神が意図して作った差別が今に至っている。
それでも転生者の影響が現在にまで及んでいるのは恐ろしい所だ。転生者の存在がなかったらこの世界はどうなっていただろうか。
神の思惑通り魔族は奴隷のままかも知れない。魔族と闘わない代わりに人間とエルフが対立した可能性が高い。実際に魔族が潜んでいる間は度々小競り合いを起こしている。
全てが丸く収まるなんて事は空想だろう。同じ人種でさえ価値観の違いや宗教対立で何年も争っている。種族が違えばその溝はその分大きい。争いと共に文明は発達していく。異世界と言っても夢はないな。結局やってる事は前世とあまり変わりはない。
俺が残した跡もまた後世に影響を及ぼしたりするのだろうか? 勇者パーティーで修羅場を起こして刺された男とかそういう不名誉な形でだけは残したくないな。
明日はゆっくり休もう。肉体的な疲労はないが、精神的に少し疲れた。動くとしても軽く素振りをするだけでいい。
さて、正直したくないが蓄積をしてから休むとしよう。
───この疲労感だけは絶対に慣れない。
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