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ゆー

第1話 ある和やかな日

_東雲小学校 校庭_


 心地よい南風が吹く3月。

 木陰の下のベンチに狭苦しく座っている4人の少女達がいた。

「ねえ…流石に狭いし暑いよぉ…。」

 薄く浮かぶ汗をパーカーの袖で拭くが、次から次へと汗は浮かび出てくるものだから、袖は湿って不快感が腕から伝わってくる。この熱の篭り様じゃ止まる筈の汗も止まらないのだ。ハンカチを持ってこなかった自分の粗雑さに後悔をするように、ボブヘアの少女_轟ゆかりは溜息を吐いた。粗雑さに後悔したのはこれで何回目だろうと思い出せばキリが無い。

「まあ…普通3人で座るものだし…そりゃ4人だったら…暑いよね…。」

 浮かぶ汗を丁寧にハンカチで拭き取るが、今にも暑さで消え入りそうな声で、ローポニーテールの少女_飴野梢は呟く。涼しげな半袖のワンピースも此処では無意味のように思えた。暑がりである梢は、今目の前に浸れる水場があれば、それがどんな汚水でも、どんな激流でも、いかなる毒水でも、冷水であれば何にでも喜んで飛び込むだろう。

「ちょっ…こず⁉わいの事押さんといて⁉明らかに追い出そうとしてるよねこれ⁉」

 一番木の近くに座っているサイドテールの少女_栗花落遥は、横腹辺りを肘で押されながら抵抗する。微妙な痛みを感じて腕で隠すが、遥が立ち上がるまで止めないようで平然と梢は突き続ける。

 遥のもとから大きい声が暑さと少しの痛みで余計に大きくなっていた。

「…もうッ!ただでさえ熱いんだから静かにしてよぉ…。」

 ゆかりと梢の間に座っているショートヘアの少女_笹沼ツバサが身を乗り出してはるかに抗議した。

 ツバサは4人の中で一番冬着に近く、先程から汗が止まらないでいたのだ。寒がりな為、今日ならセーターで大丈夫だろうと、厚手のセーターにジーンズという恰好でいる。遥のノースリーブのシャツにショートパンツという恰好が妬ましく思えて少々短気になっているのだ。

「うえぇ⁉わいが怒られんの⁉分かった分かった!わいが立つからぁ!」

「あーもう…本当煩いの変わらないね遥は…。」

「あ、涼しくなったぁ。」

 遥が立ち上がって、残りの3人は少しずれて隙間を作る。すると、すぐに篭っていた熱は抜けて3月らしい暖かさが戻ってきた。

 3人は心地よさそうに休んでいるが、遥だけは足に段々と掛かる負荷に耐えていた。

「…あははっ。」

 暫く静かでいると、唐突にゆかりが笑い出した。

「え、どしたん。」

「いやさ、3年前もこんな感じだったなぁって。そしたら面白くなっちゃって。…アハハッ!」

 3年前、というとこの4人がこの小学校に未だ在校していた時の事だ。4人とも、この東雲小学校の3年前の卒業生だ。梢とツバサは同じ中学校だったが3年間クラスも違い、しっかり話すのは久しぶりだった。ゆかりと遥は別々で会うのも3年ぶりだった。

 高校受験が終わり、4人とも進学が決まり中学校も卒業し、偶然この場で再開したのだ。

「同じだって気付いてんなら変えようって努力してくれても良くなーい?」

 肩を落としながらも遥は笑顔だった。中学校生活であまり良い思いをしなかった遥にとってこの3人との関係が変わらずにいれたことが何よりも嬉しかった。

「…しようとも思わないね。した方が異常だよ。」

 梢も笑みを浮かべて小さく言う。


 4人は何となく面白くなって、何となく笑い合って、真面な会話もしないまま時間を無駄にしていった。

「_あ、ママに呼ばれちゃった。」

 ツバサのスマホが鳴り出した。スマホに表示された時刻を見るともう17時を過ぎていた。4人が此処に集まって既に5時間が経っていた。

「あちゃぁ。でも、もう遅いしそろそろ帰ろっか。」

「結局わい、5時間ずっと立ってたじゃん!ね~疲れたよ~!」

 遥の小言を気にせず、少し速足で校門に向かう。

 そして一歩校門から出ると、ツバサが直ぐに足を止めた。

「…?どうしたの。」

「なんか…変な音しない?」

 辺りを見渡しながら耳を澄ます。ツバサの言う通り、音が聴こえた。車の音に聞こえたが、この辺りに車が走っている様子もない。そもそもここら辺は車が通れる程の道はないのだ。暫く待っていると、下の方から緑色の光が見えた。

「え、何…⁉」

 見ると、それは魔法陣のように見えた。魔法陣は4人を囲むように広がり、暫くそこに存在していた。

 数秒すると、魔法陣と_4人は消えていた。


 その場に残っていたのは、ツバサの母親とのトーク画面が映されたスマートフォンだけだった。

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