若さの薬〜枯れない薬の効果とは〜

赤坂英二

第1話 花好きな男

 起業家のオーズ氏は庭の花々を眺めた。


「わしは若くして事業を立ち上げ、何十年も働き、巨万の富を築いた。会社を大きくするためならば自分の全てを捧げた」


  オーズ氏は大きなため息をつく。


「わしも随分歳をとった。気づいたら、家族を持たず、一人で生涯を過ごしてしまった。今思えば、やってきたことは愚行だったのかもしれん。富を得たところで、死んでしまえば、金など何にもならぬ。一度でいい、わしも恋をして、家庭を育んでみたかった」


  するとメイドが後ろから近づいてきた。


「ご主人様、おはようございます。今朝はとても良い気候でございますね」


「あぁ、とても気持ちが良い、こうして花を眺めていると、人と植物の時間の流れとは違っているのではないかと思う」


  花から目を離さず、つぶやくように言った。


「そうかもしれませんね」


「あぁ、なんとも若さは美しい。できるならばもう一度若さを手に入れたい。ただ若さはいくら金を積んでも買えんがね」


  オーズ氏は力なく笑った。


「あぁ、すまない、独り言だ。何か用かね」


「ご主人様、お食事の用意が出来ております」


「そうか、今行く」


  オーズ氏は庭のよく見える部屋の椅子に座った。


「ご主人様、こちらが朝食でございます」


  メイドが丁寧に料理を置き、説明をした。


「うむ、頂こう」


  朝食はメイドはいるものの、一人でとることが日課であったが、オーズ氏は寂しいと感じながら、庭の植物を眺めながら黙々と食べるのだった。


(今はいいが、もうじきに冬が来る。冬がくれば花は枯れ、何にもなくなる。暖かい部屋に持ってきたところで冬はこせまい。そうなればより寂しくなるのぉ)


「!?」


  オーズ氏は突然口にスプーンを運ぶ手を止めた。


「そうだ! おい! 今すぐ優秀な科学者を呼んでくれ!」


 数日後、一人の科学者が訪ねてきた。


「はじめまして、科学者のハンムと申します」


  ハンム博士はハットを脱ぎ、一礼をした。


「おぉ! ハンム博士!よく来てきれた」


「早速、ご依頼を聞きましょう」


  二人は向かい合って席についた。


「うむ、実はな、花を枯らさない薬を作ってほしいのだ」

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