第十一話 警告文
その後、仲間たちは楠本が迎えに来た車で泊まっているホテルへと戻っていった。帰る前に連絡先として自室の固定電話の番号を伝えておいた。するとしばらくしてから巫女装束はあした朝来るときに持ってくるとわざわざ電話がかかってきた。
秀俊も帰ったことで、また離れには自分ひとりしかいなくなった。清司に連絡を入れて体調が良くなってきたことを伝える。清司の返事の様子からも今日忌子の身に起きたことに気がつく様子はなさそうだった。
それ以降は離れで過ごし、あしたからのことを考えていた。夜になり布団に入ると昨日とは打って変わって頭の中で、教室での出来事がぐるぐると回ることが少なくなった。それよりも、どうすれば神社で仲間たちの調査に協力できるのかを考えるようになっていた。
誰がなんのために。その疑問自体は頭から離れない。しかし、なにをどうすればいいのか。少なくとも彼女たちと一緒に呪いについて探っていく。目の前にやることがあるだけでも、自分の心の中が軽くなるのだということに気がついた。
いっそのこと仲間をそのまま巫女として扱った方が神社の中を調べるのにはいいかもしれない。しかし彼女の態度だったらすぐにばれてしまうだろうか。そんなことを考え、くすりと笑いながらも方針を考えていると、気がついたら忌子は眠りへと落ちていった。
目が覚めるとカーテンの隙間から陽の光がすでに差し込んできていた。慌てて布団から跳ね起きて時計を見ると時刻は七時を越えたくらいだった。昨日の寝不足の影響もあってか、いつもより目が覚めるのが遅かった。その分、昨日よりも体の気だるさは取れている。カーテンを開けると空は雲ひとつない快晴だった。
布団から出て脱衣所へと向かいシャワーを浴びる。脱衣所を出て玄関に目をやるとドア裏についたカゴの形をした郵便受けの中に白い封筒がひとつ入っているのが目に入る。
昨日、郵便が来ていたのを取り忘れたのだろうか。思い出そうとしても昨日はいろいろなことが起こりすぎて、郵便が届いていたかなんて覚えていない。
三和土でサンダルに履き替えて、郵便受けから封筒を取り出す。表を見るとなにも書かれていない。裏返してみて忌子は訝しむ。裏にも何も書かれていなかったからだ。宛先も差出人も書かれていない封筒。切手も貼ってないから直接投函されたことになる。たまにある不動産のチラシのようなポスティングだろうか? それにしてもなにも書いていないのは不自然だ。
忌子はリビングに戻ってハサミで封を開ける。中には折りたたまれた一枚の白い紙が入っていた。開いて中を確認すると忌子は驚愕する。
田島秀俊に近づくな
そこには真っ赤な文字で、その一文だけが書かれていた。思わず紙を放り投げる。紙は開いたまま床に落ちて、警告を発しているかのように真っ赤な文章がこちらに向いている。
後退りしてただ紙を眺めていると、突然インターホンが鳴り思わず悲鳴を上げる。居間の壁に目をやるとインターホンの画面に仲間と楠本の姿が映っていた。速くなった鼓動を落ち着けるため深呼吸してから応答する。
「今行きます」
玄関へと向かい郵便受けが目に入ることで、白無地の封筒が思い出され一瞬たじろぐ。しかし、それを振り払うかのように勢いよく扉を内側へと引く。勢いよく開いた扉に仲間たちが驚いた様子を見せる。
「大丈夫?」
「すみません。大丈夫です。あのちょっと見てもらいたいものがあって」
仲間と楠本は顔を見合わせてからうなずき中へと入っていった。
「あの、これなんですけど気がついたら郵便受けに入っていて」
居間に楠本たちを案内して床に落ちていた紙を拾い上げて机の上に乗せる。
「これは……」
楠本は紙をじっと眺めて言葉を失っている。
「田島秀俊っていうのは昨日の彼のことだね」
仲間の質問に忌子はうなずく。
「これはいつ届いたんだい?」
「それがわからなくて。気がついたのはついさっきなんですけど、そもそも昨日の間に届いていたかもしれなくて」
「少なくとも私たちが帰るときはそんなもの入っていなかった。だから届いたのはそれよりも後になる」
だとしたら夜の間だろうか? さすがに居間にいるときなら投函された音に気がつくはずだ。しかし二階の自室にいる間だったら、どうだろう。音が聞こえるような気もするが自信がない。それに寝ているときだったらさすがに気がつかないだろう。
「これも呪いと関係あるんですか?」
「さすがに無関係ではないだろう」
「でもなんで彼に近づくなって内容なんだろう。何か危険を彼女に伝えているようにも見えるけど」
楠本が腕を組みながら発言する。たしかに今までとは毛色が違う。直接、自分自身に害が及ぶわけではない。赤い文字は気味が悪いが、ある意味注意を促してくれているともいえる。もちろんその意図自体はまったくわからないが。
「今日は彼と会う予定はあるのかい?」
「いえ。特に予定を決めたりはしませんでした」
彼はクラスのことをそれとなく調べてくれるようなことを言っていた。しかし別に具体的に何かをするような話をしたわけではなかった。
「そうか。それなら差出人の意図がわかるまでは不要に会わない方がいいかもしれないな」
「そんな……」
せっかく協力を申し出てくれたのに近づいてはいけない。友達の中で唯一の味方になってくれた秀俊と会えないなんて。二の句がつげず沈黙がその場を支配する中で、またインターホンが鳴った。画面に映る姿に目を見開く。そこにはなぜか、渦中の田島秀俊が映っていた。
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