夜の終わりまで何マイル? ~ラウンド・ヘッズとキャヴァリアーズ、その戦い~

四谷軒

01 ラウンド・ヘッズ

 オリヴァーは「その戦い」に参加して、敗北を経験した。

 オリヴァーはキングの政治に納得がいかなかった。特に星法院スター・チェンバーの恣意的な裁判と厳罰により、キングの意のままに国を動かそうとするやり方が。


「そして重税。これではキングのみが栄える。われら議会派、ラウンド・ヘッズとしては、これを止めるのみ」


 そう言って勇んで参じた「その戦い」だったが、結果はオリヴァーの属するラウンド・ヘッズの敗退である。

 もう少し詳しく言うと、キングを支持する騎士党、すなわちキャヴァリアーズに敗退したのだ。特に、キャヴァリアーズの名将、「狂奔の騎士マッド・キャヴァリアー」プリンス・ルパートの猛攻凄まじく、ラウンド・ヘッズは何度も撃ち破られた。


「一体、この夜の終わりまで何マイルなんだろう」


 戦場を駆けるオリヴァーは、そうひとりごちた。

 そう、正午に始まった戦闘は、夜にまでつづいていた。

 洗練され、鍛え抜かれたキャヴァリアーズの相次ぐ攻撃に抗するため、オリヴァーは何度も出撃した。

 しかしラウンド・ヘッズは、訓練もまともにしていない、寄せ集めの新兵しかおらず、オリヴァーについてくる者はいなくなってしまう。

 それでもオリヴァーは単騎、キャヴァリアーズに挑んだ。

 朝に……そう、夜の終わりに至るまで。



 朝が来て、ラウンド・ヘッズは、これ以上の戦闘は不可能と判じ、撤退を決めた。

 憤懣やるかたないオリヴァーは、ただただ地面を拳で叩き、涙を流すほかなかった。


「僕に、僕にキャヴァリアーズに匹敵するような兵があれば。訓練した、鍛え上げられた兵があれば!」


 オリヴァーは決意した。

 必ずや騎士党キャヴァリアーズに匹敵する兵を作り上げる。

 それさえあれば、たとえ「狂奔の騎士マッド・キャヴァリアー」プリンス・ルパートにすら負けない。


「見ていろ」


 オリヴァーは遠くキングの軍をにらんだ。

 そして思う。

 このキングの支配という「夜」の終わりまであと何マイルあろうとも。


「いつかこの僕が貴様らを打ち破り、ロード・プロテクターとなる。そしてキングの支配を終わらせてやる!」


 清教徒ピューリタン革命の最中、一六四四年のマーストン・ムーアの戦いにて、のちの護国卿ロード・プロテクターオリヴァー・率いる鉄騎隊アイアンサイドが「狂奔の騎士マッド・キャヴァリアー」プリンス・ルパートを撃破する、その二年前の出来事であった。

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