第5話 僕が就職して実家を離れた訳―今後の二人について懸念があった!

美幸が大学に入学した時、僕は4回生になっていた。キャンバスは同じだったから、美幸から昼休みに一緒に昼食を食べようと誘われると僕は学食に付き合っていた。


キャンパス内では僕はいつものとおり美幸と呼んでいたが、美幸は僕をお兄ちゃんとは呼ばずに誠さんと呼んでいた。


そのころの美幸はキャンバス内でもかなり可愛い方で、近づきがたいような綺麗な女子学生だった。それはすれ違う男子学生のほとんどが振り返るほどだった。


だから、僕たち二人が歩いているときっと不釣り合いに見えたのだろう。美幸は見られていたが、僕もじっと見られた。きっとあんな不細工な男が不釣り合いな綺麗な女の子を連れていると見ていたのだろう。


それに美幸が僕の妹だと知っているのは極く限られた友人だけで、ほとんどの人は顔があまりにも違い過ぎているので、兄妹とは思わなかっただろう。


それで僕には周りの女子学生が全く近づかなくなっていた。それは美幸にも言えることだった。目立つ美幸と歩いていると彼氏がいるみたいに見えて、ただでさえ近づきがたい美人だったから誘ってくる男子学生はほとんどいなかったと思う。


それに美幸は女子の友人はいたが、男子学生には声をかけられても無視するか断っていると言っていた。今思うに、美幸はあえて大学では僕に近づいて、僕に他の女子学生が近づくのを阻止していたのだろう。


僕は美幸と歩いていると他の男子学生が羨望のまなざしで僕を見ていることも嬉しかった。僕は小さい時から美幸が好きだった。そして陰になり日向となって彼女を守ってきた。それで彼女を守れているのならそれでよかった。


大学キャンパスでの妹とのそんな関係が2年ほど続いた。僕にとっては、大好きな可愛い美幸と昼食を一緒に食べたり散歩したりして本当に楽しい学生生活だった。


自宅ではというと、2階の前の8畳の和室が美幸の部屋になっていて、2階の後ろの8畳の和室が僕の部屋になっていた。階段は玄関側と後ろの勝手口側にもあるのでどちらからも自分の部屋に行けた。


僕が6回生になって、実習や卒業研究などで遅く帰っていたころには美幸と家で会うことが少なくなっていた。


また、6回生になったころから、美幸との関係を考えることが多くなった。僕は美幸が好きだったし、美幸にも好かれていると思っていた。


僕たち二人は小さい時から兄妹として暮らしてきた。お互いに好意を持っている。それは間違いないと思う。でもそれだけで将来、結婚するようなことになっても良いのだろうか?


僕は美幸以外の女性とはほとんど付き合ったことがない。それに美幸とも本当にこれが付き合っていると言えるのだろうか?


美幸にしても、僕以外の男性とはほとんど付き合っていないはずだ。それだから、僕と美幸が一緒になったとして、そのあとで美幸がほかの人を好きになることはないだろうか? 僕にしてもほかの人を好きになることがあるかもしれない。


それで僕は美幸と距離をおいてみることにした。それがあとあと二人のためになると思ったからだ。そして美幸のいないときに両親に相談した。


僕たち二人は小さい時から一緒に暮らしてきて、お互いに好意を持っていることやこのまま結婚して一緒になることの懸念を正直に話した。そしてしばらく美幸と距離をおいてみたいこと、そのため就職は東京でしたいとの希望を話した。


両親は僕の懸念を理解してくれて、ここを離れて東京へ就職することに賛成してくれた。そしてこうも言って背中を押してくれた。


「父さんと母さんは縁があって出会って一緒に住んで結婚した。そして誠と美幸は兄妹になった。これも何かの縁だと思う。ただ、その縁は二人が結婚するまでの縁なのかは父さんと母さんにも分からない。結ばれる二人は赤い糸で繋がっていると言うから、今しばらく二人が別れて生活しても結ばれる縁ならば必ず結ばれると信じている。誠は後悔しないように自分の思うとおりに進んで行けば良い」


僕は美幸と二人になったときに僕の美幸への気持ちや今後の懸念を話した。美幸も同じような懸念があると言って、僕の懸念を理解してくれた。そしてしばらく距離をおいて二人の関係を考えてみようということも理解してくれた。寂しいかもしれないがこれも二人のための試練なのかもしれないとも話した。


そして6回生の5月に僕は東京の大手食品会社への就職が内々定した。

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