第16話 裸のネズミ
私は、鳴子さんと一軒のアパートの部屋の前まで来ていた。
ここに愛沢さんが暮らしているようだ。
鳴子さんが、部屋の取手を掴み、ガチャガチャと開けようとした。
だが、当然鍵がかかっていて開かなかった。
「これは、無理やり開けるしかないわね」
鳴子さんはそう言いながら、制服のポケットから一枚の札を取り出すと、ドアノブの上あたりに貼り付けた。
「下がって」
鳴子さんが私に警告をすると私は後ろに下がった。すると、バァン!と小規模の爆発が起こった。
私は、少しだけビクッとなる。
そして、ドアが少しだけ手前に開いた。
すると、私の頭を少し不安が過ぎる。
これって不法侵入なんじゃないかなあ?
でも、今は状況的に仕方ないよね。
鳴子さんが、ドアを掴み人が通れるくらいまで開くと、そのまま私たちは彼女の部屋へと入っていった。
短い廊下を進み、彼女の部屋に入ってみると、中は茶色っぽい壁のごく普通の部屋であった。だいたい、広さは私の住んでるところと同じである。
少し気になったのは、動物や変なマスコットキャラのぬいぐるみがたくさん置かれていたことだ。
「特に、部屋はおかしなとこれはないわね」
鳴子は、部屋に入るなりそう呟く。
そして、入って左側に洗面台があるようであった。私と、鳴子さんは扉を開けて洗面台へと入る。
すると、いかにも嫌な感じのする鏡が洗面台にあった。なんだか、その鏡の周りだけどんよりとしていて、空気が
かなり不気味な感じだなあ、、、
「これは凄いのがいそうね。結界を開くわよ」
鳴子さんは、少し緊張したような声でそう呟く。
彼女は一枚の御札を鏡へ貼り付けた。
すると、お札が消え、鏡の真ん中にアーモンド型の黒い穴が空いたのだ。
なんか、不思議だなあ、、、
私が、驚いてそれを見つめていると、鳴子さんは私に待っているようにと言った。
「今から、愛沢って子を助けに行くわ。あんたはここで待ってなさい」
彼女にはそう言われたが、これは私が頼んだことだ。
最後まで、見届けたいと思う。
それと、私にも出来ることがあるかも知れない。
「いえ、私も行きます。これは私が頼んだことですから」
私は、決意のこもった声で彼女へそう返す。
「分かったわ。でも約束して。
危なくなったらあなただけでも逃げるのよ。
それを約束できるんならついてきてもいいわ」
すると、彼女は危なくなったら逃げると約束するんなら、付いてきても良いと言った。
「分かりました」
私は、そう返事をする。
「なら、さっそく入るわよ」
鳴子は、力のこもった声でそう呟く。
「ええ、行きましょう」
そうして、私と鳴子さんはアーモンド型の穴の中に入っていくのであった。
◆
穴の中に入ると中は薄暗く、真ん中に一本の白い道が伸びていた。そして、道の端には青い炎が灯った3メートルくらいの
そして、私と鳴子さんは道の真ん中を歩いていく。
「鏡の中ってこんなふうになってるんですねー。
なんだか不思議です」
奇妙に思った私は、彼女へそう呟く。
「正確には異界ってところね。霊界と現実世界の狭間みたいなもんよ」
彼女は、私の呟きに対し、そう答える。
「へー。やっぱり鏡の世界って異界と繋がってるんだー」
「まあ、異界と繋がりやすいのは確かだけど、この場合は愛沢って子が変なことしたから繋がってしまったと言った方が正しいわね」
どうやら、愛沢さんが都市伝説の検証なんてしたから異界と繋がってしまったようだ。
ああいうことは本当にやめておいた方がいいと思う。
しばらく道を進んでいくと、大きな広場に出た。広場の周りにも蝋燭が等間隔で並んでいるようだ。
そして、道の真ん中には顔がネズミで人間の体を持った裸の化け物が立っていた。筋肉質の漆黒の体に、腹から胸にかけてが赤黒いのが特徴的だ。
化け物の少し後ろには棺桶に似た祭壇のようなものがあり、人が一人寝かされているようだ。多分、愛沢さんだろう。
私は、化け物を見た瞬間、怖くなり、ここへ来たことを後悔しかけた、、、
でも、せっかくここまで来たんだ。
愛沢さんを救うまで、引き返すわけには、いかないだろう。
そして、鳴子さんは私の前に出ると、化け物と対峙した。
「私があいつを倒すから、あんたは愛沢って子をお願い」
彼女は私に向かってそう言うと、布袋から日本刀を取り出し、鞘から抜き放った。
そして、ポケットから何枚かお札を取り出すと、それらを投げつけながら裸のネズミへと駆け出していった。
すると、ネズミは頭上に腕を伸ばして、左右の指を絡めるようにして合わせると、腰を横に振って体をうねらせるという奇妙な動きをしだした。
そして、ネズミの胸から腹にかけての六箇所から体液のようなものが飛び出し、お札を全て撃ち落としたのだ。
迫り来る体液。
鳴子さんはそれを華麗に回避。そして3枚の札をネズミに投げ放つ。
それらは、全てネズミに命中し爆発した。
今度はネズミは口から体液を弾丸のように放ったようだ。
それに対し、鳴子さんはお札を一枚前方へかざした。すると、鳴子さんの前方に半透明の膜のようなものができ、体液を防いだのだ。
私は、その光景を眺めながらなんとか祭壇までたどり着いた。ネズミは鳴子さんとの戦いに夢中で、私の動きに気がついていないようだ。
祭壇には、愛沢さんが横たわっている。
「起きて、愛沢さん」
私は彼女の側まで近づき、揺すったが反応はなかった。
最初、彼女の顔は青白く、死んだように眠っていたので、本当に死んでいるのではないかと思った。
だが、ちゃんと呼吸はあるようで生きてはいるようだ。
私はほっと胸を撫で下ろし、安心する。
ちゃんと生きてて、よかったよ、、、
そして、私は祭壇をじっくりと観察する。
祭壇には、いくつかの魔法陣や記号のようなものが書かれているようで、それらは、薄く光りを放っているようだ。
時折、それらの魔法陣や記号が一瞬だけ強めの光を放つと、彼女は苦しそうに息をした。
もしかして、これは生命力のようなものを吸収しているのかもしれない。
私は、彼女を祭壇から動かすと、魔法陣や記号は完全に光を失った。
私は顔を上げて視線を前に上げると、鳴子さんがネズミの懐に入り込み、剣を横凪に一閃するのが見えた。
しかし、ネズミには当たらなかったようで、体をくの字に折り曲げて回避していた。
そして、鳴子さんが日本刀で更なる追撃を加えようとした時だ。
ネズミは後方に大きく跳躍すると、空中でコマのように3回転し、蝋燭の近くに着地した。
そこで、ネズミは少し衝撃的な行動に出る。
なんと、ネズミは口から黒い体液をゲロのように吐いたのだ。
それは、白い地面をどんどん黒く染めながら浸食していった。
嫌な予感を感じた私は、咄嗟に愛沢さんが横たわっている祭壇の上に登った。
鳴子さんも何かやばいと感じ取ったのか、地面の侵食が足元まで迫ると、一枚の御礼を取り出した。
すると、御礼が青い光を放ち、鳴子さんの全身へと広がった。そして、彼女は数秒だけ宙を舞うと、私がいる祭壇の上に着地した。
彼女の御札が光った時、ネズミが顔を
広場の床全体はネズミの体液で汚染されたようだが、祭壇の上は大丈夫であった。
だが、私の嫌な予感はまだ消えていない。
ネズミは近くの蝋燭を一本へし折り、片手でそれを握った。
鳴子さんもネズミの行動に対し、危機感を感じ取ったのか祭壇の周りに、5枚の御礼を貼り付けた。
そして、ネズミは勢いよく蝋燭を地面に振り下ろした。
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