ツンツンな妹に嫌われてる俺に、可愛らしい理想の妹ができた話
譲羽唯月
第1話 新しい日から――
いつも親しく会話してくれて、ドジっ子で、どんな時でも笑顔を絶やすことなく明るく振舞ってくれる。
でも、少し悩んだりすることもあったりと――
そういう悩みを自分が解決してあげるという流れが理想なのだ。
辰樹には一応妹がいるものの、現実はそう甘くはなかった。
そんなある日、辰樹はとある子らから告げられたのだ。
私のお兄ちゃんになってよ――
とある美少女からのセリフ、それが全ての始まりだった。
「あんたと一緒に学校に行かないといけないとか、ありえないんだけど」
新学期の朝。
自宅リビングで仕度をしている時に、ツインテールな妹の
妹はツンケンした話し方をする。
杏南とは昔から過ごしてきたのだが、妹の気持ちがサッパリわからない。
中学一年生の頃までは普通に会話することもあった。
今となっては別人なのではと感じることが度々あったのだ。
妹とは昔のように仲良くなりたいと思っていたのだが、今の様子だと難しそうだった。
「じゃあ、なんで俺と同じ学校にしたんだ?」
「そ、それは、いいでしょ! そもそも、同じ学校の方が、その、両親だって安心するしッ!」
「そうかもしれないけどな」
辰樹は少し悩んでから話す。
「でもさ、杏南の成績だったら、もっと上を目指せた気がするけど。俺はただ成績がそんなによくないから、今の学校に通っているだけで」
成績が悪いと言っても、あからさまに悪いというわけではない。
偏差値は五〇から六〇くらいで普通といったところだ。
「でも、まあ……一緒の学校だし。というか、私、学校の場所わかんないから案内して!」
「え? じゃあ、どうやって受験しに行ったんだ?」
「それは、もう、いいから! というか、いつになったら準備が終わるわけ?」
妹は不満げに頬を膨らませ、辰樹のことを睨んでいた。
「ご、ごめん。それに関しては俺が悪いな」
「もう、行くから!」
「え、ちょっと待てって。場所わかるのかよ」
「わかるから!」
妹は苛立っているようだった。
「え、どっちだよ」
辰樹はため息をはきながらも、玄関で靴を履いて玄関を出る。
扉に鍵をかけて、桜の花が咲く通学路を歩き出している妹を追いかけるのだった。
「ここが学校ね……」
辰樹が普段から通っている学校は、自宅から徒歩で三〇分のところにある。
妹は校門のところから本校舎を見つめていた。
「どうした?」
「別に……あんたって、いつもこんなパッとしないところに通ってるんだと思って」
「そういう言い方はよくないだろ。それに他の人もいるところで」
校門のところを通過している、学校指定の制服を着用していた数人が、二人の方をチラチラと見やっていた。
「だから、余計な事は言わないようにな」
「ふん……」
「まったく」
「あんたの方が」
「え?」
「別に、なんでもないし」
妹は朝っぱらから不機嫌だ。
そっぽを向かれてしまった。
辰樹からしたら、妹が学校生活をちゃんと送ってくれるかどうかで、内心、不安でいっぱいだった。
二人は校舎に入る。
中履きに履き替え、昇降口のところで誰かの視線を感じたのだ。
「もしかして、辰樹くん?」
セミロングヘアで清楚風な女の子が辰樹の方を見て佇んでいたのである。
誰かと思い、考え込んでしまうが、やはりわからない。
「私の事は知らないか。でも、無理はないよね。私、今年から辰樹くんと同じクラスになった人だから。私は
晴香は笑顔を見せながら近づいてきた。
そして、手を差し伸べてきたのだ。
辰樹も応じるように手を差し伸べ、互いに軽く握手するのだった。
「ねえ、そっちの子は?」
「こっちは、俺の妹で」
「へえ、そうなんだ。よろしくね」
晴香は手を差し伸べていたが、妹は不愛想な顔を浮かべるだけだった。
「え? 私、変な事をしたかな?」
「いや、そうじゃないと思う。多分、まだ学校に馴染めてないだけだから。今年から一年生で」
「そうだよね。でも、最初は誰でも馴染めないと思うから。今後ね」
晴香が言うと、妹は背を向けて立ち去って行く。
「え? 場所わかるか」
辰樹の問いに妹は立ち止まり、それから振り返る。妹は、わかるからと言って再び正面を向きながら立ち去って行った。
「えっと、あの子大丈夫かな?」
「んー、さあ、わからない。でもさ、あんな感じでも昔は普通だったんだけどね」
「そうなの? じゃあ、緊張してるだけ?」
「それだけであればいいんだけど」
辰樹はため息をはいていた。
二人は廊下を歩いて、目的地となる二階の教室へと向かう。
教室には、殆ど知らない人ばかり。
辰樹は新学期に馴染めるか不安でしょうがなかった。
黒板には、マグネットで名簿表が貼り付けられてあったのだ。
それを見やるが、昔からの唯一の男友達の名前はなかった。
多分、別のクラスに振り分けられたのだと思われる。
去年は一緒のクラスだったがために、一気に知り合いがいなくなり、今年このクラスでやっていけるのか不安でいっぱいになってくるのだ。
「おはよう、今年も同じクラスだったんだね」
「やったね、同じで! うん、またよろしくね」
晴香の方は知っている子が数人ほどいるようで、その子らに話しかけられ、楽し気に会話を始めている。彼女らは自身の席を探すように黒板前から立ち去って行くのだった。
俺、今年どうすればいいんだよ……。
元から友達と言える人がそこまで多くはない。
体育の時間とか、一人確定になってしまうと絶望を感じていた。
「君も、今年も一緒とは運があるね」
「ん?」
近くから声が聞こえ、ハッとして、そちらの方を振り向いた。
そこには中学からの知り合いである
え……?
辰樹は黒板の名簿表を見ると、確かに彼女の名前がある。
助かったと思った。
「私も君と一緒で良かったよ。今年もよろしくな」
ショートヘアで小柄な体系の名子は手を差し伸べてきた。
「ああ、俺の方も」
名子がいた事で心が安らいだ。
彼女も、辰樹と似ていて、そこまで友人が多い方ではない。
陰キャ寄りの同士であり、高校一年生の時から趣味が合い、休日もたまに遊ぶ事もあった。
ある程度の信頼感のある子が一人でもいれば、今年は何とかなると思う。
辰樹は未来に希望を抱きながらも、自身の席を探るように彼女と共に教室内を移動する事となったのだ。
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