第1章 ─浪漫珈琲①─


 泉は、行きつけの喫茶店『浪漫ろまん珈琲こーひー』でくつろいでいた。


 ここは、駅から少し離れているので、滅多に混雑することがない。居心地がとても良いので、悟志と一緒に、時々来ている。何より、素敵な振る舞いのマスターが素晴らしい。

 

 折り目正しく、紳士という言葉がよく似合う。おそらく珈琲にも、かなりこだわっているのだろう。店内で流れる、神秘的な音楽もまた、ミステリアスな雰囲気にさせてくれる。


 泉の隣でミルクティーを飲んでいるのは、この店で知り合った美香という女性。彼女もこの店の常連で、旦那さんと一緒に、よくここを訪れる。泉と美香は、ここで知り合い親しくなった。




 泉は、ホットコーヒーが注がれたカップに口をつけ、

「マスター、いつも美味しいです。幸せな気分になります」


「有り難う御座います。そう言って頂けて、こちらも幸せですよ。ハハハ」マスターは、微笑む。


「マスターは、紳士だなぁ。うちの旦那も見習ってほしいよ」美香が愚痴る。


「旦那さん、素敵じゃない。優しくて」泉。


「優しいのは、良いんだけど。結構、適当ですよ」美香はそう言いながらもどこか、嬉しそうにしている。


「マスターは、家でもちゃんとしてるんでしょうね」また、美香が言う。


「どうでしょうか。普通ですよ。ハハハ」優しく笑うマスター。




 泉は、気になっていた。マスターの顔が少し赤らんでいる。私達が、褒めたから照れているのかと思ったが、こういう会話は日常で、紳士なマスターは、いつも冷静だった。



──熱でもあるのかな? 耳も赤い。



 泉は、看護師という職業柄、気にはなったが、体調が悪い感じでは無さそうなので、大丈夫かなとも思った。 



「音楽も素敵ですよね。こだわりとかあるんですか?」美香が質問する。


「まあねぇ。仕事に入るスイッチみたいなものかな? ハハハ」 


──また、赤くなった。少し目が泳いでいるようにも見える。


「どうしたの」美香が不思議そうな目で見つめる。


 泉は、

「あ、いや。何でもないよ。この店は、マスターのこだわりが詰まっているんですね。素敵」


「そうですね。私の人生が詰まってます」マスターは、真っ赤っ赤になっていた。




 ──心配だ。



 

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