File01-02
午後三時。
「ねえ、キミ? もしかして、一人?」
とあるショッピングモールの三階、広場の中心にあるベンチ。そこに座る一人の少女に、ある男が声をかけた。金髪の、見るからに軽そうなその男は、へらへらと笑いながら俯いて座っている少女に声をかけ続ける。
「もし暇ならさぁ、オレと一緒に遊ばない? 楽しいことしてさぁ」
「……」
「ねえ、どう? 時間ある?」
「――あと、二時間五十八分四十二秒」
「……え?」
少女の唐突な言葉に、男は意味がわからず聞き返した。少女はゆっくりと顔をあげて口を開いた。
「爆発まで、あと、二時間五十八分二十五秒です」
[緊急事態発生、緊急事態発生。全員、直ちに緊急配備につけ。繰り返す、緊急事態発生――]
室内に響くサイレンと放送の声に、リュウは飛び起きた。外からばたばたと走る音や叫び声が響く。リュウは小さく舌打ちをして、朝投げ捨てたコートを拾い上げて部屋を出た。廊下を走っていく途中で、携帯電話の着信音が鳴り響いた。リュウはコートのポケットから携帯電話を取り出した。電話に出ると、デュオの焦ったような声が聞こえた。
[リュウ、さすがに起きてるな?]
「何だ」
[爆弾だ]
「……は?」
想像していなかった単語に、リュウは驚きの声を上げた。一瞬司令室に向かう足が止まりそうになったが、なんとか動かして進んだ。
「どういうことだ? 何で爆弾の処理が、俺たちに?」
[詳しい事情は後で説明する。だからさっさと来い!]
怒鳴るようにデュオが叫ぶと、電話がブツリと切れた。電話が切れてしまってはどうしようもないリュウは、走る速度をあげて、司令室へと向かった。
[現状報告。店内にいる客、および店員等の人数は三万五千八十二人。三階中央広場から離れた立体駐車場屋上に避難しています]
[中央広場を中心とした半径十キロメートルに、Aランクの結界が張られており、内部からの脱出は困難な状況です]
[外部からの干渉反応が見られたため、現在、A以上の魔導師が結界破壊に向かっています]
[なお、万が一の場合に備え、現在、半径五十キロメートル範囲内にいる住人には避難勧告を出しました。現在、避難は全て完了しています」
司令室の大型スクリーンには何人もの管理員が映っており、それぞれが現状を報告している。リュウは呆然とした表情で、スクリーンに映りだされているショッピングモールを見つめている。
「……何だよ、あの馬鹿でかい結界は……」
「予測される魔法使いのパワーレベルは、AA。いや、それ以上か」
[その可能性が高いと考えられる]
デュオの推測に、スクリーンの向こうにいる管理員が頷いた。画面には現在の状況が目まぐるしく映り出され、更新されてゆく。リュウはそれを見つめていた。
「デュオ。プランAの内容は」
「こんなところだ」
そう言ってデュオは自分のデスクの上にあるパネルを操作し、スクリーンに画像を映す。
「現在、ショッピングモール内にいた客と店員は爆弾のある広場から離れた立体駐車場の屋上に避難している。上空の結界を一部破壊して、そこから安全な場所に転送させている。だが、一気に転送するのは不可能だから、十キロずつ移動させている。ここまではいいか?」
「わかった。だが、質問」
「何だ?」
「結界の破壊が一部っていうのには何の理由がある?」
結界を挟んでの転送が困難なため、結界を破壊している。しかし、狭い範囲しか破壊しないと、その範囲内でしか移動させることしか出来ない。それならば、一気に結界を破壊して移動させたほうが早いはずである。それを尋ねると、スクリーンの別の管理員が答えた。
[爆弾の規模からして、半径五十キロメートル以上に影響を及ぼす可能性があります。そのため、結界破壊は最小限に抑え、全員を非難させた後、再び結界を作り、爆発の影響を抑える必要があります]
「なるほど。了解です」
「そして、お前への任務は」
「結界破壊の補助と転送補助、か」
「いや、違う」
リュウの言葉にデュオがすぐ否定を入れる。予想していなかった言葉に、リュウはぱちぱちと瞬きをした。
「爆弾の処理だ」
「……爆弾の処理?」
「ただの爆弾なら結界破壊のみを俺たちが行って、後は警察や軍に任せるレベルだ。だが、今回の爆弾はドールだ。犯人を特定する有力な証拠になる」
デュオの言うとおり、通常の爆弾ならば爆弾処理班などで対応できるが、ドールとなると対応できるのは魔導士のみである。そして、そのドールが確保できれば、そこから爆弾を仕掛けた犯人――魔法使いが特定できる。
「だが、絶対に成功させる必要はない。最優先は客たちの全員が避難できることだからな。お前に無理させるつもりはさらさらないから、避難が完了した時点でお前も退避していい」
「わかった」
そう言ってリュウはネックレスを外した。紐を持ち、黒いモチーフを下にたらした状態にする。
「モード、アクティブ」
リュウが唱えた瞬間、ネックレスは一瞬黒い光を灯すとその形を変えはじめた。モチーフ部分は大きくなり、紐はぴんと張り始める。数秒後、リュウの手にはネックレスではなく、ロッドが握られていた。
「残り時間は?」
「あと一時間半ってところ。あと、リュウ」
リュウの問いに対しミリーネが早口で答えると、リュウに向かって何かを投げた。顔面にぶつかりそうになったそれを、反射的に受け取ったリュウは驚いたように声を上げた。
「うお?!」
「とりあえずカートリッジ三本。それだけあれば足りるでしょ」
「お、おう……了解」
手を開いて中身を確認する。単三の乾電池のようなカートリッジが三本あった。
「じゃあリュウ、さっさと行って来い」
「了解」
そう言ってリュウは司令室を駆け足で出て行った。
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