File No.7:次なる事件
「でさでさ、その廃墟で犯人が捕まったらしくて....」
「うん」
「しかもね、それを捕らえたのが噂の『女子高生探偵』らしいの!」
「うんうん」
「はぁ~凄いよね~!だってうちらと変わらない歳なのに大人に混ざって事件をバンバン解決してるんだもん!」
「ね~凄いね~」
「ちょっとラウラ~!ちゃんと聞いてよ~!!」
肩を掴まれガクガクと揺らされる。こっちは食事中なのだからあまり揺らさないで欲しいのだけど....
先日の事件が報道されてから既に3日が経っている。犯人が刑事だったこともあり役職は伏せられていたが、その場にいた私に記事のフォーカスが向いてしまったらしい。一応、
『誰も姿を知らない若き探偵』と雑誌にデカデカと書かれている人物が、まさか目の前にいるとは夢にも思っていないだろうな....
「....?勇貴?」
ふとこちらをじっと見つめる勇貴に気づく。彼の名前を呼ぶと、少し動揺したように目を逸らした。
「どうしたの?」
「いや....何でもない」
明らかになんでもなさそうな雰囲気だったが、本人がそういうのなら余計な詮索はしない方がいいだろう。
『....』
(ん?シャロちゃん?)
私の中でシャロの意識が覚醒しているのを感じる。彼女は何か考えているようだが、何も話そうとしない。
(どうしたの?)
『いや、何でもない。気にするな』
皆隠し事ばかりらしい。
少し寂しく感じつつも昼食を食べ終える。と、その瞬間にタイミングよく私のスマホが鳴った。
「ん、なんだろ」
鞄から取り出したスマホの画面には、メッセージが届いたことを示す通知が入っている。それも送ってきたのは『バイト先』と書かれたアカウントだった。
私は他の人に見られないようそのメッセージの内容を確認し、小さく頷いた。
「ごめん、私早退する」
「え?!まだ午後の授業あるよ?って、もしかしてバイト?」
「うん。お父さんの会社でちょっと厄介なことが起きたらしくて。先生には言って帰るから」
もちろん、お父さんの会社で起きた厄介事など嘘だ。父親が会社運営をしているのは本当だが、その会社は世界的大企業で、今お父さんは海外にいる。
私は度々お父さんの会社の手伝いをしているが、それを隠れ蓑にして向かう場所など1つしかない。
(次の事件、か....)
『バイト先』アカウントの正体は『新東京警視庁特務課』。つまりは女子高生探偵のお呼び出しということだ。
***
呼び出された私は警視庁に入ると、特務課ではなく別の場所に案内される。
向かったのは検死室と呼ばれる場所。警察病院も併設されている為、死体解剖や検死なども同じ建物で行える。
検死室前の控室に入ると、既にそこには蛇島刑事がいた。
「よう、嬢ちゃん。....と、今はまだラウラちゃんか?」
「正解です。シャロちゃんと変わりますか?」
「ああ、頼む」
スッと目を閉じ、体から意識が遠のいていく。たった1秒のその行動の間に私の意識が切り替わった。開いた目の色は金色。私とシャロちゃんが切り替わっている。
「ふわぁ....おはよう蛇島。今日は何の用だ?」
「相変わらず寝坊助だな名探偵。というか、変わっても意外とわかるもんだな。違和感はあるが....」
「ふん、それはそうだ。同じ体を共有してるんだからな。そんなことより、今回の事件はなんだ?検死室ってことは死体から情報を取るんだろうが....」
ガラス越しに検死を行っている医師たちを見る。調査されているのが男なのか女なのか、年齢すら遠くてよく分からないが、検死されている以上まともな死に方ではないのだろう。
事故や殺人などであればめったなことでは検死など行わない。行う可能性があるとすれば突然死かあるいは....
「変死体、といった所か?」
「察しがいいな名探偵。その通りだ。今解剖してるのは3人目の遺体だ。前の2人の時点で、既にある程度の結論は出ている」
蛇島が見せてきた紙の資料には、前に行った2人の検死結果が記載されていた。体に異常はなく、外傷もない。
検出されたのは異常なまでの油分量だけ。そしてなにより死亡理由が不可解だった。
「『脳の密度が足りていない』....なんだ?脳外科でも受けた形跡があったのか?」
「いや、2人に脳外科の手術履歴はないし、それに伴う外傷も見当たらない。志望理由は文字通りだよ。『脳の密度がない』、つまりはスカスカだったってことだ」
「なんの理由もなくそうなるのはおかしいな....ん?」
その時、もう1つの項目に目が行った。この2人、確かに検死で検出されたのは過剰な油分量と死亡原因と思われる不可解な頭だけ。だが、それ以外にも共通点がある。年齢や性別といった話ではない。だがその共通点が妙に気になった。
「蛇島、この2人に肝臓の手術歴、もしくは治療履歴があるか?」
「いや、調べた感じはなさそうだぞ。1人目の男に関しては腎臓の方に治療歴はあるが、肝臓に関する治療はどちらも受けていない」
「なら、これはなんだ?」
覗き込んでくる蛇島の前で、解剖結果の1つを指さす。そこに書かれていたのは『肝炎』の発見結果。つまり、検死の段階では2人とも肝臓に炎症を起こしているのがわかる。
「肝臓に関する治療歴や手術歴がないのに、2人とも肝炎にかかっているなんて....おかしいと思わないか?」
「それは確かに....でも、たまたまってことはないか?急性肝炎なんて、そう起こりにくい病気でもないだろ?」
「だからこそ気になるんだ。これで3人目の結果にも同じものが書かれていたら....」
そう言った瞬間、プシューという音と共に検死室の扉が開く。中から検死を行っていた2名の医師が出てきて、手袋などを外していく。除菌が終わり、彼らはこの控室に入ってきた。
「ドクター、お疲れさん」
「まったく嫌な仕事だよ。何回目だこの手の解剖はよ。....っと、そちらが例の探偵か?」
「ああ。シャーロック・ホームズという。以後お見知りおきを」
「そうかい、お前さんもこんな事件に巻き込まれて大変だな。俺は
「よろしく、Dr.寺井。それで、検死結果の方は?」
「ああ、そろそろ出力が終わるはずだ」
控室にあるプリンターから数枚の紙が出てくる。検死中に入力したデータが印刷されたその紙は、3人目の検死結果がしっかりと記載されていた。
受け取ったその情報を見て、やはりそうかと確信に至る。
思わずニヤリと口角が上がってしまう。薄っすらと笑ったまま手元の紙を蛇島に見せ、そして3か所の項目に指を差した。
「確定、だな」
1か所目は前2人と同じレベルの『油分量』、2か所目は死亡理由とされる『脳の密度』、そして最後は肝臓に存在た『肝炎』。
年齢も性別もバラバラな3人が、全く同じ死に方で全く同じ結果を有している。数が揃えば、それは最早偶然ではない。
「マジか....」
「何となくこの症状に心当たりがないわけではないが....まだ確証はない。証拠を集めに行こう」
「ってことはつまり」
「ああ。被害者宅に家宅捜索に行くぞ」
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