無能な僕でも世界征服してみたい! 〜顔面しか取り柄のないクソ男の、カリスマのみを用いた世界征服計画〜

発狂神

プロローグ クソ男との出会い1

 「うーむ、自分のやりたい事が分からない、と。なるほどねぇ……」



 高校1年の4月中旬。



 少しずつ学校生活も慣れてきた頃に、悩みは訪れた。


 進路希望調査。私立の自称進学校として名高いこの高校では、この時期から進路について考えろと、先生達は躍起になっていた。



 勿論、私こと茉白ましろ 伊吹いぶきにも、高校でやりたいことはあった。



 部活は軽音部に入ろうとか、中学時代から仲の良かった友達と高校生YouTuberやってみようかなとか、文化祭何しようかなとか、たくさん考えていた。


 1年前の私は、来年は高校生になるんだ、と本当にワクワクしていた。



 けれどそれは、志望校に合格できていればの話。高校受験に失敗した私は、第一志望の高校でやりたかった夢を殆ど諦めざるを得なくなった。


 軽音部は無いし、中学時代からの友達は居ないし、校内スマホ禁止だし。



 ……そもそも大学以降についてを殆ど考えていなかったからというのもあるが、それでも、自分のやりたかった事が出来なくなったダメージは大きいもので、 「なんでもいいや」 なんてちょっと自暴自棄になっていたこの時期に、進路希望調査。



 何がしたいのか、何をやりたいのか思いついても、ネガティブな思考が邪魔して結局何も思いつかなくて、悩みに悩んで今に至る。



 担任の先生である黒瀬くろせ 美飛みと先生は、私の提出したほぼ白紙に近い紙をペラペラとなびかせながら、うーんと唸り声をあげている。



 「進路についてはまあまだ1年生だし、とりあえず何かテキトーな志望校書いておくだけでとりあえずは良いとして、 うーん、道に迷ってるってのには、教師として何か言ってやらんとなあ……」



 ふと、黒瀬先生が紙のある場所に注目して、口を閉じる。



 「……良いことを思いついた」


 「へ?良いことって?」



 私が尋ねると、黒瀬先生は私に紙の表面を見せ、に指を指す。



 「茉白、お前まだ部活に入ってないのか」


 「まあ、はい。元々軽音部入りたかったんですけど、この学校無かったんで……。他の部活も、なんか、ピンと来なくて……」


 「丁度一昨日できたばかりの部活があるんだ。ありがたいことに、私が顧問にならせてもらってな。放課後暇なら、ちょっと見学に来てみないか?」


 「え?あの……。……ちなみに、どんな部活ですか……?」



 黒瀬先生は私の問いに、ニヤリと笑ってこう答えた。



 「見学に来てくれるんなら教えてやろう」


 「えっと……」


 「さあ、答えを聞こうじゃないか」


 「わ、分かりましたよ、行けば良いんでしょ行けば……。それで、どんな部活なんですか?」


 「来てからのお楽しみだ」


 「なんですかそれ……」



 罠に嵌められたような気がしたけど、今日は別に忙しくないし……。まぁ、いいか。





 放課後すぐ、私は黒瀬先生に連れられ、視聴覚室に案内された。



 視聴覚室の扉には、お世辞にも綺麗とは言えない字で、


 「統治部」

 「今日は17:30まで体験会やってます」



 何これ?



 「あの、黒瀬先生……」


 「じゃ、開けるね。中に部長さんが居るから、挨拶してね」


 「ちょっ……! まだ心の準備が――」



 私の話なぞ聞こえなかったかのように、黒瀬先生は扉をガラリと開ける。




 中は殆ど机が片付けられており、中央にぽつんと大きな円卓が1つ。



 いくつかある椅子の内、一番奥の椅子にのみ、誰かが座っていた。本を読んでいるのか、ここからだと顔が見えない。



 「時宮ときのみやさーん! 言ってた体験会の子、連れてきましたよー!」



 私と話しているときとは打って変わって、先生はその人影に敬語で話しかけ、私にも挨拶するようにと催促した。


 少し疑問を覚えながらも、私はその人に挨拶をする。



 「は、初めまして……。 茉白 伊吹っていいます。体験会? に来ました?」



 人影は持っていた本を閉じ、顔を上げた。



 「……!!!!」



 美しい人だった。



 毛先にかけてグラデーションの鮮やかになる虹のような白髪。


 水色と金色の混ざった吸い込まれるような瞳。白くくっきりと整った目鼻立。


 触れたら崩れてしまいそうな程に華奢な頭身。


 制服のバッジからして、私と同じ1年生だろうか。でも、こんな人、見たことない。というか、見たことがあれば決して忘れないはずだ。


 それくらいに彼は、美しかった。世界で1番美しいと、お世辞ではなく、心から思った。



 彼は私に気がつくと、長い脚を一歩ずつ前へ出していき、私へ向かう。



 視界が彼に覆われたその時、彼は私の顎にそっと触れ、その吸い込まれそうな眼差しで、私の目をじっと見つめながら、ニコリと微笑み――



 「芋っ」



 最低最悪なディスをぶちかました。



 「へっ……? ……はっ!?」


 「いやー凄いね君。こんなに素材の無駄遣いしてる人、そうそう居ないよ。滅茶苦茶芋いね」


 「な、何なんですかっ……! 会っていきなり……!」



 彼の手を振り払おうとするが、思ったように体が動かない。



 ……まさか、この男に顔を触れられて、喜んでいるの??? ……私が!? こんなクズに!?



 彼は私の心なんてつゆ知らず、私の前髪を指で勝手に上げたり、ふっと息を吹きかけたりして遊んだり、顎から頬にかけて手をフィットさせたりと、やりたい放題だ。



 「いや、ここまで絶妙なバランスで芋いと逆に面白くなってきたな。君、一人っ子? それか長女でしょ?」


 「それがっ……! 何なんですかっ……!」


 「やっぱり。どっちかといえば長女っぽいけど、まあこの辺はいっか。 他には……、親は母親が過干渉。父親が無関心ってところかな?」


 「いきなりっ……! ペラペラとっ……!」



 何なのこいつ……!!!

 さっきから初対面のくせして人のプライベート言いたい放題言って……!




 ……ってあれ? なんでこいつ私の家族のこと知ってんだろ?



 「目元からして軽い睡眠不足。 結構ストレス抱えてるね。対人関係? ……も、あるだろうけどメインじゃなさそう。親子関係も関わってるかも?」



 ズケズケと、私のプライベートを語っていくこの男に、違和感を覚える。



 最初はストーカーとも思ったけど、彼の分析? を聞いて、私は只者ではないオーラを感じ取った。



 「あなた……何なんですか……? 何者なんですか……?」


 「んあ? あぁ、ごめんごめん。自己紹介が遅れちゃったね」



 彼はようやく私の顔から手を離し、少し距離を置く。


 ……それを少し残念がっている自分に反吐が出る。



 「僕は時宮ときのみや 虹彩こうさい。統治部の部長をしてる。どうぞよしなに」



 ヘラヘラと、胡散臭く挨拶をする時宮。


 挨拶が終われば、時宮は少し離れて立っていた黒瀬先生の方へ向かい、今度は頬を優しく撫でながら語りかける。



 「先生も、僕のお願い聞いてくれてありがとうね。やっぱり先生はとっても頼りになるよ」


 「もっ……勿体無いお言葉ですっ……!!」



 黒瀬先生はうっとりした表情で彼に頭を下げる。


 いつも強気な黒瀬先生のあんな顔、想像つかなかった。本当にどうなってるの……?


 ひとしきり黒瀬先生を撫でた後、再び私の方へ向く時宮。



 「それで、伊吹さんは体験会に来たんだっけ?」


 「(下の名前……)まあ、はい」


 「なら、統治部について説明しないとね」



 彼は視聴覚室の隅に追いやられていたホワイトボードを持ってきて、面を入れ替える。



 「統治部とは!!!」 と書かれている。

 ……多分。何せ字が汚い。



 「統治部はその名の通り、僕がこの学校を、ひいてはこの世界を統治する為に作られた部活!」


 「やることはとってもシンプル。 僕がこの学校を統治する為に色んなことを考えるから、部員は僕の傘下に加わって僕の為に動いてもらう。 僕は部員に対価として、安らぎを与える。 次世代の部活さ」



 あ、ダメだやばい人だこの人。というか黒瀬先生はさっきからなんで拍手だとか紙吹雪だとかやってるの? キャラじゃないでしょ……。



 「ありがとう、先生。……それで、伊吹さんはもしこの部活を気に入ってくれたのなら、入部も考えてくれてるのかな?」


 「いや、私はそもそもこんな変な部活の体験会なんてやりたくな……」


 「まあまあ茉白、そう早まるな。 確かに時宮さんは個性的な方だけれど、きっとお前も時宮さんについていきたくなる」


 「というかさっきから先生はどの立場で物言ってるんですか!?」


 「私は時宮さんの傘下だ」


 「意味がわからない……」



 何なのここ。何なのこの人たち。カルト宗教の勧誘???


 宗教の勧誘とかって大学になってからじゃないの???



 「まあまあ、先生。伊吹さんもちょっと困惑してるだろうし。……そうだ!とりあえず部員という体じゃなくて、相談者という体で体験してもらおう」



 彼は勝手に話を進めていく。



 「その方が分かりやすそうだしね。この部活は一応、お悩み相談室も兼ねていてね。傘下じゃない人からも意外と人気なんだよ?」


 「は、はあ」



 さっきから状況に全くついていけず、上辺の返事になってしまっている。

 


 「先生は自分の業務まだあるだろうし、戻っても良いよ。今日は本当にありがとうね」


 「お安い御用です。それではお先に失礼致します」



 先生は最後まで時宮に敬語で接して、視聴覚室を後にした。




 残ったのは私達2人。円卓に向かうように座っている。



 「2人のほうが話しやすいこともあるだろうしね。……それで、伊吹さんは何を困っているんだい?」


 「別に私は何も……」


 「進路希望調査」


 「!!!!!」


 「あはは!図星だね」



 さっきからこの人は、初対面のはずなのに、私の全てを見透かすかのように話をする。……気味が悪い。



 「別に! だからといって貴方に相談するようなことではございません!!! そんな義理もありません!!!」


 「まあ待ちなよ」



 時宮は私の隣に席を移し、私の瞳を覗き込みながら語りかける。



 「目を閉じて想像してみて? ここには今、伊吹さんの話を無限に聞いてあげられるAIがあるんだ。人に言いにくいことも全て、本音で話して良い存在がいるんだ」



 時宮は自分自身を指さしながら言う。



 「悩みを聞いてあげるだけでも良いし、何か言葉が欲しいのであればそれを言おう。解決策が欲しいのなら、このAIは何か答えてくれるさ」



 「それに、別に僕の言葉を真に受ける必要はないんだ。でも僕の言葉の中に、少しでも良いと思うものがあれば、採用する。それだけでいい」


 「だからっ……! 見ず知らずの人に本音なんてっ……!」


 「言ったろ? 僕の言葉を真に受ける必要はない。本音が言いたくないのなら言わなくて良い。話したくないことまで話す必要はない」



 「ただ、話を聞いてくれる人がここに居るんだよ。伊吹さんが困ったときに、先生に相談したのと同じ。なにか困ったことがあるのなら、とりあえず誰かに相談する、それが今回は聞き手の方からやって来ている。なかなか無いシチュエーションだよ」


 「……」



 私は、黙ってしまった。人にとっては些細な悩みでも、私にとっては大きいもので、……少し、話してみようかな、なんていう思考が過ぎってしまう。



 「最後に、もう一度言わせてほしい。伊吹さん、君の悩みを僕に話してほしい。それでも話したくないのなら、今回は諦めよう。さあ、どうする?」



 こんな得体のしれない人間に相談しても、期待するだけ無駄だと、頭の中ではそう思っている。



 ……それでも、私は彼に、話してしまった。



 「……私、自分が何をしたいのか、分からないんです」






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