第11話 初陣
ついに冒険者として正式にデビューする日を迎えた。
俺自身は救世主パーティー【ヴェガリス】に加入するよりも以前に似たようなことをしていたので目新しいというわけではないが、ライセンスを発行して正式に冒険者として活動するのは今日が初めてだ。
当然、ミレインとメルファも同じなので、今日はダンジョンへ向かう前にライソンから簡単な仕組みを教えてもらう。
ギルドへ向かう途中、リゾムの町並みを眺めているうちに気づいたが……かなり雰囲気がよくなっているな。やはりドネスがいなくなった影響が大きいようだ。あの時、町を我が物顔で歩いていた連中は蜘蛛の子を散らすように逃げだしたし、騎士団の介入があればさらにちょっかいをかけづらくなるだろう。
改善に向かっている町の治安にホッとしつつ、俺たちはギルドへ。
早速受付に声をかけようとするが、それより先にライソンが俺たちを発見して駆け寄ってきた。
「よぉ、いよいよデビューを決めたか」
「そうなんだけど、【ヴェガリス】時代もダンジョンへは頻繁に入っていたから新鮮味に欠けるんだよな」
「でも、あの時はおまえもミレインも臨時扱いで正規メンバーじゃなかったんだろう? 自分たちのパーティーとしてダンジョンに挑む記念すべき一日であることには変わりないんじゃないか?」
「まあね」
そうなのだ。
俺はあくまでも指南役としてあのパーティーに所属していただけ。アルゴから正規メンバーにならないかと声をかけられていたが、気乗りしなかった。救世主ってガラじゃないし、何よりあの時はミレインを一人前にしてやりたいという気持ちが勝っていたからな。
おかげで脱退の手続きなどは不要だったから助かった。
救世主パーティーに昇格するといろいろ縛りがあって大変なんだよな。
【ヴェガリス】ではそういった面倒な手続きはジェームスやカインの仕事だった。
そのため、俺もいまいちパーティーの仕組みとやらを理解しきれていない。それをライソンに話すと、彼は喜んで説明を始めてくれた。
「パーティーにもランクっていうのがあってな。おまえたちは登録されたばかりでまだ実績がないから一番下のEランクからスタートだ」
「私たちが一番下なんて……」
「仕方がないさ。これから上がっていけばいいんだし」
ミレインは不服そうだったが、こればかりは仕方がない。
「最大でAランクだが、そこからさらに功績を積み上げていくことでSランクという特殊なランクを与えられる。これが救世主パーティーに昇格するために必要なんだ」
「そういえばそうだったな」
国が用意した特定の条件をパスすることで、冒険者パーティーから救世主パーティーへと格上げされる。そこから先は国の依頼で仕事をこなすが、報酬は桁違いだし、救世主パーティーだからこそ使える特権もいくつかある。
この特権ってヤツを求めて救世主パーティーになろうと画策する連中もいるんだよな。アルゴたちもその節があったけど……結局、最後まで使命感は芽生えなかったな。
「ランクによって受けられるクエストも違ってくる。当然報酬も異なる。ただ、ちょいと事情があってな。高レベルのクエストは現在受付停止中なんだ」
「どうして?」
事情に疎いメルファが尋ねる。
……まあ、大体察しがつくけど。
「ドネスたちの影響がまだ残っていてな。よそへ移った冒険者たちを呼び戻すのにまだまだ時間がかかりそうなんだ。一応、あいつらに乗っ取られる前の水準へ戻すつもりではいるが……当面はそのつもりでいてくれ」
「こればかりは仕方ありませんね」
「ああ、そうだな」
俺たちとしても、今日はダンジョン初挑戦となるメルファもいるし、初心者向けの簡単なクエストにしようと考えていたので問題ない。できれば、彼女の魔法の威力を試すために採取より討伐系が望ましいが。
そう希望を伝えると、嬉しい情報が。
「西にあるグリーン・バレーという名のダンジョンで
「グリーン・バレー……確か、ダンジョン内でありながら植物が生い茂り、森のようになっている場所だったな」
リゾム近くにある三つのダンジョンの中ではもっとも規模が小さく、強いモンスターの目撃情報もない。あそこに絡んでいるのは薬草や解毒作用のある木の実などを持って帰る採集クエストが多く、まさに初心者向けと呼べるダンジョンだ。
そこに大量発生している
「倒したら尻尾をちぎって持ってきてくれ。あれは魔法薬を作る材料にもなる。クエスト達成の報酬とは別にこちらで買い取らせてもらおうよ」
「分かった」
これはなかなか割のいいクエストだ。
ライソンも復帰初日ってことで気合が入っているらしい。
「さて、これで目的は決まったな」
「はい!」
「そのモンスターを倒せばいいのね」
クエスト内容はシンプルで覚えやすい。
メルファもやることがすんなり頭に入ってヤル気満々だ。
俺たちは受付を済ませると、グリーン・バレーと呼ばれるダンジョンを目指してギルドを出たのだった。
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