伝播(でんぱ)していく熱(ねつ)

転生新語

プロローグ

 私はさん十才じゅっさいで、十才じゅっさい年上としうえあねがいる。私は独身どくしんで、姉は既婚者きこんしゃだった。


 だった、と過去形かこけいなのは、姉がおっと死別しべつしたからだ。大学生だいがくせいだった姉が結婚けっこんして出産しゅっさんしたのはじゅっさいのときで、学生がくせい出産しゅっさんというのは大変たいへんだったろう。そして姉の一人ひとりむすめ五才ごさいになるまえに、姉のおっと病死びょうししてしまった。彼がどんな男性だったかも、もはや私はおもせない。




 あねは、就職しゅうしょくしてむすめそだてている。私はぎゃくで、結婚けっこん就職しゅうしょくもすることなく、だいがくそつぎょうもフラフラして現在げんざいれないものきをやっていた。両親はすうねんまえくなって、その遺産いさんなんとかやっているのが私なのである。私は実家じっかひとらしなのだった。


むすめが大学のはるやすちゅうなんだけどね。いま、ちょっと精神的せいしんてき不安定ふあんていなのよ。貴女あなた、ちょっとてくれない?』


 そんな電話が姉からあったのは、月初がつはじめのことで。どう応答おうとうしたものか、私はおおいに困惑こんわくさせられた。精神的せいしんてき不安定ふあんていって。それは私が、ちょっとくことで解決かいけつできるのだろうか?


「マジメにこたえていい? それは私じゃなくて、ちゃんとした医療いりょう機関きかん利用りようするべきよ」


『ああ、そんな大袈裟おおげさはなしじゃないの。ほら、よくあるじゃない。春先はるさきになったらふんしょうになったり、気温きおん変化へんか体調たいちょうくずしたりすることがさ。私のむすめは、そういうコンディションのみがせいしんめんこるだけなのよ。母娘おやこ二人ふたりらしっていう環境かんきょうかもね、あなてくれたらくなるから』


「そうなの? ……私、もう何年なんねんも、ねえさんのどもにってないわよ。それでやくてる?」


 最後さいごに姉のむすめったのは、両親の葬儀そうぎだった。私にってめいたる彼女は当時とうじこうこうせいだったとおもす。姉の背中せなかかくれるように、ちらちらと私をていたようなで、おさなころからずかしがりなのはいまわらないのだろう。


てる、てる。私、会社かいしゃ出張しゅっちょうかないといけないの。数日すうじついえける必要ひつようがあって、不安定ふあんていむすめ一人ひとりにしたくないのよ。過保護かほごもうわけないけどね』


過保護かほごとはおもわないわよ、大事だいじ一人娘ひとりむすめだもの。わかった、私でいのならくから」


 きっと私は生涯しょうがい結婚けっこんすることも、つこともないだろう。唯一ゆいいつ身寄みよりである姉と、そのむすめやくてるのなら、いくらでも協力きょうりょくしようと私はおもった。

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