第17話 死にゆくブレンダの言葉
その時だった。エイダたちの反対方向から、何十本もの矢が飛んできた。その矢が、山賊に突き刺さる。次々と倒れる山賊たち。エイダは、ブレンダのもとにかけより、その手をとって、「ブレンダ!!」とささやき、泣いた。
「そこまでだ!!」と、村の逆方向の入り口から姿を現したのは、この村からは遠いはずの魔法ギルドの魔法使い5名であった。服装で分かる。ギルドの隊服を着ているからだ。
「ちっ、見つかったか!!」と、山賊の長が言う。
「おおい、撤退するぞ!!」と、山賊たちはリーダーに言われ、踵を返して逃げ惑った。
「大丈夫ですか」と、ギルド員の魔法使いの男性が、エイダたちのもとに駆け寄る。
エイダは死にゆく妹の手を取り、妹を膝枕していた。ブレンダの目から、徐々に生気が失われていく。流れていく血の量からして、もう長くはないだろう。
「すみません、我々は、別の任務の途中で通りかかった者です。医療魔術師は連れていないのです・・・お力になれず申しわけない」と、魔法使いの男性がエイダに近寄って言った。
「ブレンダは、いつも公のために尽くしてきた優しい子だったんだす」と、エイダが絞り出すように言った。
「私は違うわ。私はブレンダが世界の中心だった。たった一人の妹だったから。教会がいつも通り平和ならそれでいい、と思っていた。ブレンダは、自分の食事からもパンを、取っておいて、教会に来る孤児たちにあげるような子でした・・・。あんな野蛮な山賊にやられるなんて・・・・!!」と、エイダが激しくすすり泣く。
「シスターさん・・・お悔やみ申しあげます・・・」と、魔法使いが、かける言葉を見失って言った。
「神父様に言われて――ずっと主を信じていた。けど、またこうして裏切られる。もう死にたい・・・」と、エイダが言った。
その時、時間が止まったようだった。天上の世界から、光の塊が降りて来た。
「もう一度、主を信じてみませんか?」と、優しい声がした。エイダが、はっと顔を上げる。
「私の名はアテナ神。あなたと妹さんを、聖人にならないかとお誘いに来ました」と、アテナ神・・・長身のすらっとした女性が言った。変な衣装を着ている。ということは、「神」というのは本当なのか。
「時を止めました」と、アテナ神が言った。
「この空間で話せるのは、あなたとブレンダさんと、わたくしのみ」と、、アテナ神。
「聖人・・・!??!?」と、エイダが呟く。
「そうです、あなたの愛する妹・ブレンダさんと一緒に、です。ずっと一緒にいたいのでしょう??それなら、竜人になって、世界を守る仕事を続けませんか」と、アテナ神が険しい顔つきで言った。
「聖人も竜人も一緒です。この職業につけば、あなた方は聖なる竜に変身できるようになる。そして、この世界を脅かす悪しき神から、この世界を守れる。どうです??」と、、アテナ神。
「おね・・・え・・・ちゃん・・・」と、死にゆくブレンダが囁いた。
「ブレンダ!!!」
「わた・・・し・・・ドラゴンになりたい・・・・おとぎ話に出て来た、竜に・・・・わた・・・しも・・・なってみたい・・・」
「さあ、どうします、エイダさん??」と、アテナ神。
涙を止めたエイダは、確固たる声で言った。
「妹の望みをかなえてあげたい。いいですわ、わたしたちも聖人になります」と、エイダが言った。
「いいでしょう」と、アテナ神。
ここでブレンダの記憶は途切れた。その後のことは、姉がしてくれたのだろうと、ブレンダは思っていた。
朝日の陽光が差し込む中、前世・ブレンダのセレスは、大きくのびをして目を覚ました。
エイダとは現世のリゼティーナのことであり、ブレンダとは現世のセレスのことであった。
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