第4話 旅立ち

 二人は、周りに誰もいないのをみはからって、クレドの魔法で、声を聞こえなくして、逃げ出す手はずを整えた。まあ、逃げるといっても、堂々と、「今日からアイリーンはクレド賢者とともに巡礼の旅に出ます」と言えばよかった。

「私の兄は、どうせ戻ってこないでしょう・・・今まで毎月送られていた手紙も、とぎれて半年以上たちます」と、アイリーンが泣きながら言った。

「・・そうか・・・ガーレフ皇国の王族の野郎どもと、大臣たちが、戦争ばかりしてるからだな、ったく、しょうがない奴らだ」と、クレド賢者。

「・・クレドさま、本当に私もついて行っていいですか。何の魔法も使えない、ただの一シスターですが」と、アイリーンが言った。

「ああ、アイリーン、俺もな、実を言うと君の好き通るような緑色の目に惹かれたんだ。それに、一人ぐらいなら、俺の金で救える」と、クレド。

「では、わたくしはあなたの弟子というか、付き人としてついて行きましょう」と、アイリーンが言った。

「ん?そういえば、君何歳??俺には、10代後半に見えるが」

「あら、そうでしたか、賢者様。わたくしは一応20歳を超えています」と、アイリーンが言った。

「え??そうなの??」と、クレド。

「はい・・・シスターになったのが16の時、それ以来、数年間、この教会に身を捧げてきました」と、アイリーン。

「・・・そうか。俺はな、魔法ならほぼ使える。メルバーンの魔法学校で学んでな、32の時賢者に選ばれた。もうだいぶ昔のことだ。妻をもらおうとかとも思ったが、なかなかそんな気にもなれなくてな、独身でいる」

「・・そうですか」

「ま、それはさておき、俺の亡くなった妹に似ている君には、生き延びてほしい。俺が守るから、明日にでも、この町を去ろう」と、クレドが言った。

「はい」と言って、アイリーンがにっこりと微笑んだ。

 やがて、アイリーンは、少しクレド賢者と話した後、クレド賢者に与えられた部屋を去り際、

「あなたは、なんとなく、私の出征した兄に似ています」とだけ言って、哀しい顔をして笑顔で出でいった。

(はは、そう来たか・・・)と、クレドは苦笑した。

「アイリーンちゃんねぇ・・・」と、ベッドにごろんと寝そべって、クレドは天井を見て呟いた。

「俺が看取った妹に、うり二つ・・・とまでは行かないが、似てるんだよなあ、これが情にほだされる、ってことなのかなあ」と、クレドはふと思った。

 そして、クレド賢者が滞在して、3日目、クレド賢者が、教会を去り際、(食料の一部…ミニチュア魔法で備蓄していた食料の一部を、お礼としておいて行ったのだった)、

「俺は、このアイリーン・ラッセルちゃんを、弟子として、世界アラシュアの正義のため、連れて行きたく存じます。シスター長、許可を!!」と、言ったのだった。

「まぁ、賢者様、なんだって、アイリーンを選ばれたのです??その子は、魔法も使えませんよ。他のシスターたちも使えない子がほとんどですが・・・」

「ええ、まあ、将来、俺のお嫁さんにもらおうと思ってましてね、シスター長」と、クレドが咄嗟に嘘をついた。

(は!!??!)と、アイリーンは心の中で思った。クレドが、ぐいっとアイリーンの肩を引き寄せる。

「俺とアイリーンは、将来結婚します!なので、俺にシスター・アイリーンをください」と、クレドがシスター長に言った。

 門の前に集まったシスター一同があっけにとられ、ぽかーんと見ている中、沈黙をやぶり、シスター長の一人が言った。

「アイリーン・・・は・・・貴方のお気持ちは??」と、シスター長がやっとのことで言ったのだった。

「わ、私は・・・はい、クレド賢者様に、ついていきます。どこまでも」と、アイリーンはやっとのことで言ったのだった。

「・・そうですか・・・」と、シスター長たちがやれやれ、という顔をした。

「いいでしょう、あなたの、このフレズノの町のシスターの任から解きます。自由に生きなさい、シスター・アイリーン。ただし、主への信仰心は、捨てないでほしいものです」と、シスター長の一人が静かに言った。

「は、はい、シスター長。ありがとうございます。わたくしめは、一人の主に使えるシスターとして、生涯この賢者様についていきます。それでよろしいでしょうか」と、アイリーンがおそるおそる言った。

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