第35話 さよなら、ダンヌさん

 ダンヌさんは、その気になったらボクを完全に取り込めるはずだったらしい。

 しかし、ダンヌさんはそうしなかった。


「どうして、ボクを取り込まなかったの?」


「オイラがナオトを吸収したら、ただ獲物を食らうだけの魔王に逆戻りしてしまうお」


 けれど、ダンヌさんはそれを許さない。

 なにより、自分が許せなかったという。

 自分の魂を受け継いた人間と出会ったことは、使命なんだと思ったらしい。


「ダンタリオンの下僕に過ぎなかったオイラは、ナオトの人間性に感銘を受けたお。自分をちゃんと持った人間じゃなかったら、乗っ取っていたかも知れないお」


 でも、ダンヌさんから見て、ボクは面白い人間だったそうだ。


「ダンダリオンの自己中な部分をいい意味で引き継いでいるとも言えるけど、やっぱりナオトはナオトなんだお。オイラは、どうせついていくならナオトがいいお」


「ダンヌさん」

 

「ナオトとは、ずっとともだちでいたいお」

 

 ダンヌさん、そこまで考えて、ボクを生かしておいてくれていたのか。

  

「ラスボスが瀕死だってのに、いちゃついてんじゃねえよ!」


 ボロボロの状態で、ダンタリアンが起き上がった。

 ここまでくると、もはやただの標本である。


「これを使う時が来たよ」


 ボクは、チョーコ博士から預かっていた丸い魔石を取り出した。

 最大級の火力を持つ、大型のフォトンだ。

 こいつを使って、このダンジョンを破壊する。


「やめろ! ダンジョンを破壊したら、オレが死んでしまうぞ!」


「だから?」


「そうなったら、お前らだって死ぬ!」


 ダンタリオンに懇願されて、ボクは一瞬立ち止まった。


 そうか。ボクはダンタリオンの一部だ。


 やつが死んだら、ボクも死ぬのか。


 そこまで、考えていなかったな。


 でも、やるべきことはひとつだ。


 ボクが生きながらえて、ダンジョンを介してダンタリオンが毎回悪さをするくらいなら、ボクが死んでダンタリオンが滅びたほうがいいよね。


「よせ! せっかくカノジョだってできたんだぞ! 平井ヒライ 菜音ナオト! 人間として生きることができるのに! オレを生かしておけば!」


「さよなら、ダンタリオン」


 ボクは、ダンタリオンの口にフォトンを押し込んだ。


「ほごおおおおおおお!」


 ダンタリオンの口内で、フォトンが大爆発を起こす。

 頭部が破壊されて、ダンタリオンは灰になっていった。

 

「これでよし。あとは、どれだけ生きられるかだけど」


菜音ナオトくん!」


 緋依ヒヨリさんが、ボクに歩み寄る。


 ボクの身体は、だんだんと透明になっていった。


「お別れみたい。なんの余韻もなくて悪いんだけど」


「そんな! せっかく、一緒になれたのに!」


「仕方ないよ。世界が終わるくらいなら、ボクはいないほうがいい」


「菜音くん!」

 


――じゃあ、さよなら。


 

 と言いかけたときだった。



 ダンヌさんが、ボクの身体から抜け出す。


「ファム!」


 それだけじゃない。ファム・アルファちゃんが、ボクの体内に入り込んだ。


 ダンヌさんとファムちゃんが並ぶ上空に、光が差し込む。

 

「それでいいお。オイラたちの命を、ナオトにあげるお」


「ダンヌさん!」


「二人は、ずっと生きるんだお。こういう役回りは、オイラたちに任せるお」


 ダンヌさんが、ファムちゃんと一緒に光の中へ消えていった。

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