第26話 ダルデンヌ 対 ダルデンヌ

「オイラの力を、イナダイクミが取り込んだのかお?」


「いかにも! カトウ・アウゴが、わたしのために用意してくれた、新しい身体だ! このボディをなじませるために、全身と脳の半分を持っていかれたが」


 改造イクミが、長い爪を振るう。


「危ない!」


 ボクは、緋依ヒヨリさんを抱きかかえて飛んだ。


 長い爪によって、ダンジョンの壁が引き裂かれた。

 

菜音ナオトくん!?」


 緋依さんが、ボクの背中に目を向ける。


 ボクの背中には、三本の赤いラインが入っていた。

 すぐに傷は塞がったけど、まだわずかに痛みが取れない。避けたつもりだったが、骨までえぐられたか。

 

「平気だ。これくらい」


「ヒヨリは、隠れているお」


 ボクは、魔法剣を構えて向き合う。


「最初から、フルパワーでいくお」


「うん。そうしないと、勝てないよね」


 ボクはダンヌさんを覚醒させて、右腕を肥大化させた。


 相手の蹴りや突きを回避しつつ、顔の右半分を占めるカプセルへ執拗に攻撃を繰り出す。イナダイクミさえ潰せば、ダンヌさんも元に戻るはずだ。


 敵は、左腕しかない。なんとか、スキをついて……。


 しかし、右から金属製の腕が飛んできた。


「ぶごお!」


 ボクは、鋼鉄のパンチをまともに食らう。


イクミの右肩から、鉄骨の集合体が伸びている。稼働させているのは、大量の魔石だ。無加工の魔石が、鉄骨を操っている。

 

「魔石……フォトン・ノードか」


 調節していないから、オーバーヒート気味ながらも凶悪な出力を誇る。


「フォトン・ノードを実験しているのは、羽鳥だけではないということだ!」


 金属の手から、熱線を撃ち出す。


 狙うは、緋依さんだ。


「くっ!」


 ボクは、緋依さんの盾になった。


 防戦一方で、前に出られない。


「ぐうううう!」


「このままでは、全滅だお!」


「なにか、手があるはずだ!」


 作戦を考えていると、背後に動きが。

 

 ボクの後ろにいた緋依さんが、前に踏み込んできたのだ。


「てめえ、いい加減にしろ!」


 緋依さんの身体が、VTuberの【ファム・アルファ】ちゃんへと変わった。

 ここはバーチャル空間でも、テロスが生み出した空間でもないというのに。


「緋依が身体を貸してくれているのだ。今のアタシは緋依でもあり、ファムでもある!」


 金属製の腕を、ファムちゃんは蹴りで叩き折った。


 すぐに再生されるも、立て続けにファムちゃんは拳を叩き込む。


「この鉄骨ヤロウやアタシが止める。アンタたちはバケモノの方を止めてくれ!」


「わかった! ありがとう」


 ボクは、ダルデンヌに攻撃を集中させた。


 それでも、ダルデンヌの猛攻は止まらない。


 頭が二つあるため、二人同時に仕掛けても対応されるのだ。


「直接イクミを狙うのは、ムリだお。スキがなさすぎるお」


「そうだね。ここは、ダルデンヌを倒すとみせかけて、攻撃をシフトする」


 しかし、ボクの武器である魔法剣は、強靭な爪によって破壊されてしまう。


 ここまで、強いのか。


「ぎいいいい!」


 ダルデンヌの繰り出した爪によって、ダンヌさんの腕が切り裂かれた。


 あまりの光景に、ファムちゃんが緋依さんに戻ってしまう。

 

「菜音くん!」


正気に戻った緋依さんが、攻撃の手を止めそうになる。


 そのスキを逃す、イナダイクミではない。今にも鉄骨の手のひらから、熱線を飛ばそうとしていた。

 

「このおお!」


 ボクは残った左腕で、落ちたダンヌさんの右腕を掴んだ。炎属性を付与する。


「【ブレイズ・スラッシュ】!」


 炎をまとった爪によって、ダルデンヌの顔を貫く。


 その長い爪は、ダルデンヌの頬を突き破り、イナダイクミの顔にまで到達した。


 イクミが入っているカプセルが、ボクの炎によって沸騰し始める。


「ぎゃああああああ!」


 あまりの熱さに、ダルデンヌが裏拳でボクを叩き落とす。

 

 顔まで溶け出し、イクミは熱線をボクへと向けてきた。


「甘い!」


 ボクは爪で、イクミの放った熱線を反射する。


「ああああああああ!」

 

 跳ね返った熱線は、今度こそイクミを焼き尽くす。


「はあ! はあ!」


 ボクは、イクミの口からダンジョンのコアが落ちたのを確認する。


「緋依さん!」


 呼びかけに応えた緋依さんが、ダンジョンのコアを刀で貫く。


 ビルが、動きを止めた。

 同時に、重力が元に戻る。


「うわ!」


 地面だった壁から、ボクも緋依さんも滑り落ちた。


 しかし、ダルデンヌの死体に落ちたおかげで、助かる。

 

「ダンヌさん、これで、キミは元通りになるんだよね」


 ボクは右腕に、切れたダンヌさんの腕をくっつけた。

 ちぎれた部分が、再生を始める。

 

「そうだお。ナオト。感謝するお。でも」


「でも、なに?」


「オイラがダルデンヌと融合したら、今度こそナオトはライカンとなってしまうお」


 元には、戻れないわけか。


「いいんだ。今はダンヌさんの力が必要だ。そのためなら、ボクの命なんてどうでもいいさ」


「よくないお! ヒヨリはどうするお!? こんなにも、心配してくれているお! ナオトにとって大事な人を悲しませてまで、元に戻るのはなんか違うお」


「キミがやらないなら、ボクがやる」

 

 ボクは、ダルデンヌの死体に手をかざす。


「ナオト……ごめんお」


「気にしないでよ。ダンヌさん」


 ボクの身体に、ダルデンヌの力が宿る。

 これが、本来持っていたダンヌさんの……。


「あれ、身体がなんともないや」


「完全に、力を取り戻したことで、人間状態でも力を発揮できるようになったお」


 ボクの魔法剣も、ダンヌさんはあっさり再生させた。

 ここまで、できるのか。


「じゃあ、カトウ・アウゴのところまで行こうか」


 ビルのエレベータを使って、魔力の痕跡をたどる。


「VIPルーム」と書かれた部屋に、到着した。

 

 この扉の奥に、世界をダンジョン化した張本人がいるはずだ。


 しかし、扉を開けると、信じられない光景が。

 

「……え!?」


 カトウ・アウゴは、死んでいたのである……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る