第24話 移動要塞 フォトン・コーポレーション本社

「全員に見えるように、我が屋敷のモニタで見られるようにするでち」

 

 タブレットから、博士の家にある巨大モニタに映像を映し直す。


 四足歩行のビルディングが、街を踏み潰している。


 ビルの足は鉄骨でできていて、鉄板が家や店を踏んづけていた。


 戦車や戦闘用ヘリが攻撃しているが、ビルは弾をまったく受け付けない。 


「あれは、フォトンコーポレーション。ウチの本社だよ」


「え、あれ、会社なんですか?」


「ああ。今では化け物になっているが」


 ドシンドシンと、街を壊しながらどこかへ進んでいる。


「どこへ向かっているんです?」

 

「どこでもないさ。特に目指す目的地なんてないよ。アウゴはとうとう、実力行使に出たらしい。おそらく、ダンジョン化における地ならしだろうね」


 街の破壊すること自体が、目的みたい。

 

「あちらが攻撃とかは、してこないんですか?」

 

「したくても、できない。フォトンは、地球ではロクに作動しないからね。動力も、大したことはない。せいぜい、街を踏み潰して回るしかないのさ」


 ゴブリンやスライム程度なら、いくらでもフォトンは取れる。それでも、ボタン電池くらいの電力しか手に入らない。とはいえ、高威力のフォトンを持つ魔物は強すぎる。


「だから、魔王クラスのフォトンが必要だったわけなんだけどね。使い手の命を伸ばす方に、使われちゃったからなあ」


「どうしてカトウ アウゴは、物理的な都市破壊に、計画が移行したんですか? ダンジョン化でさえ、十分に脅威なのに」


 緋依ヒヨリさんが、羽鳥社長に問いかけた。

 

「ダンジョンの中では、キミ等を倒せないからだろう。ダルデンヌの力を得たとはいえ、平井ヒライ 菜音ナオトくんは人間だ。ダンジョンで倒せると思ったんだろうね。だが、あてが外れた」


 ボクは生き残り、世界の主要ダンジョンは消滅しつつある。 


「おそらくあのビルには、現存するすべてのフォトンが使用されている。内部には入れず、外からの攻撃は通じない」

 

 歩くビルの動力としてしか、フォトンは使えないみたいだ。


「どうしてです? フォトンがあれば、無敵だと思うんですが」


「フォトンはちゃんと制御しないと、すぐに地球の大気に霧散してしまうんだ。キミたちもダンジョンから出ると、スキルを使えなくなるだろ?」


「はい」


「ダンジョンに入っている間だけしか、フォトンの効果は発揮されないんだ。魔力はそれだけ、地球との相性が最悪なんだよ。そんな世界を嫌って、アウゴは地球を作り変えようとしているんだ」


 意のままに魔法を操れる世界を作ることが、カトウ・アウゴの目的らしい。


「カトウアウゴは、自分を地球へ転生させた神を憎んでいる。彼の矛先は、常に地球の神に向けられているんだ。他は、どうでもいい。そのカギとなるのが、同じように転生してきた勇者の魂を持つ、明日葉アシタバ 緋依ヒヨリくんなんだよ」



 あーあ。なんだか、読めてきたな。


「緋依さん、どうやらアウゴって、キミを仲間だとかは思っていないんじゃないかな?」


「そうね。地球から出る方法か、地球で魔法を発揮する方法を探るためだけに、私をさらおうとしていたみたいね」


 羽鳥社長も、ボクたちと同じ考えに至ったみたいだ。


「ナルシストの彼に仲間意識なんてないから、おかしいとは思っていたんだよね。なるほど、そういうことなら、すべての行動に辻褄が合う。どうして、緋依くんに執着していたのか。ふむふむ」


 そう考えると、ホントにカトウ・アウゴってクズなんだな。


「もっと知的な相手だと思っていたよ。アウゴって」


「シリアルキラーなんて、そんなもんだよ。彼のような凶悪犯は、たいてい凶暴で粗野なものさ」

 

 カトウ・アウゴの本性は、ただの凶暴な魔物と変わらないと、羽鳥社長は断言した。

 

 

 しかし、ボクが切り札である馬面の魔物を殺したことで、アウゴ側も詰んでしまったと。





「冒険者も数を減らして、緋依くんも捕まえて、すべて今まで順調に進んでいたのに、キミがすべて台無しにした。ナイスなタイミングだったんだよ。ホントに」


 ボクがダンヌさんと組んでいなかったら、世界は終わっていたわけか。


「しかし、油断はできない。どうやって中に入るか」



 一応、構造を聞くと、本社はドーナツ状になっていて、縦穴を抜けていけばいい。


「とはいえ、誰が入っていくか」


「ボクが行きます」


「わたしも」と、緋依さんも立候補する。


「中に入る方法は、あります。あなたの車が、犠牲になるんですが」


 ボクが作戦内容を告げると、羽鳥社長は大笑いした。


「これは、傑作だ! すばらしい。ダルデンヌが、融合する相手にキミを選んだ理由が、よくわかるよ! 最高だな、キミは!」


 満足気に、羽鳥社長がヒザを叩く。

 

「あいわかった。助かる。では、ワタシの自家用車をあげよう。ぶっ潰してくれて構わないよ」


「ありがとうございます」

 

「ただし帰りは、ルゥさんに連れて帰ってもらってくれ。すぐそこに、待機させる」


「はい。心得ました」


「それと、もうひとつ。死ぬなよ、ふたりとも」


 ボクと緋依さんは、大きくうなずいた。

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