第17話 緋依の正体
ボクはダンヌさんの魔法で、状況を打開しようとした。
しかし、ルゥさんに止められる。
「ダメですぅ、
「おっと、動くなよ。動くとこのお嬢ちゃんがハチの巣になるぜ」
ハンターのリーダー格が、ライフル銃を撃つ。
弾は、緋依さんの近くに着弾した。
緋依さんはビクリとも動かず、ただリーダー格を睨みつけている。気丈な人だ。
とはいえ、ここは従うしかないらしい。
ボクは、武器を下ろす。ダンヌさんの右腕も、しまった。
ハンターたちが、ボクの腕を縛り上げる。
緋依さんが、女性ハンターたちの手で乱暴に立ち上がらされた。
刀は取り上げられ、両手は二人がかりで取り押さえられている。
ルゥさんも、ハンターたちに縄で縛られた。
使い魔がただのカボチャに変わる。
ロープに、魔法を封じる効果が込められているらしい。
『やったね~。うまくいったよ。エルフ族の姫様だけじゃなくて、【ファム・アルファ・烈火】の中の人まで捕まえられたからね~』
「ファム・アルファちゃんの? どこにいるんです?」
『そこにいるじゃん』
『
え、ウソ。
*
ファムちゃんは、ボクに勇気をくれる人だった。
『過激に、ブレーイズッ! 炎のVTuber、ファム・アルファ・烈火だ! 今日も、みんなから送られてきたマシュマロをドロドロに焼いていくぞ!』
ハイテンションで、ファムちゃんがスマホからリスナーに声を掛ける。
一方のボクはベッドに横になりながら、スマホを見つめていた。
真っ暗な部屋の中で、電気もつけずに。
『最初のお便り! 「学校がつまんない。ずっとファムちゃんだけを見ていたい」だとぉ!? 思ってくれるのはありがたいが、学校は一応通っておけ! アタシだって、学校や仕事はつまんないぜ!』
ファムちゃんが、コメントに強い返事をした。
このお便りは、ボクが出したものだった。
なんのために勉強しているのか、わからなかったのである。
早く自立したいという気持ちばかりが、募っていて。
バイトを始めたのも、育ててくれた祖父母の負担になりたくないからだった。
でも、できるだけ仕事の時間を増やして、一刻も早く家を出たい。
そう考えていくうちに、ますます学校がイヤになってきたのだ。
『お前の気持ちはわからなくもない』
ファムちゃんは一回、不登校になったことがあるという。Vの活動を始めたので、仕事と学業の両立が難しかったためだ。
だが活動中、自分勝手に過ごしてしまったらしい。終始イライラして、わがままになっていったという。
『苛立っていたときに、仲間から指摘されてな。また学校に通いだして、仕事もセーブするようになったんだよなー』
そうか。ファムちゃんだって、完璧じゃないんだ。
ちょっとポンコツなところがあるからこそスキだったはずなのに、ボクはすっかりそんなことを忘れて。
ファムちゃんの中に完成されたキャラクター性を見て、勝手に神格化していたのは、ボクの方だった。
『いいか? 孤独になると、人とのつながりをなくしちまうんだ。全部自己責任になるのはいい。けど、思考まで自分勝手になっていくぞ。気をつけろ! はい次!』
ボクみたいな雑草人間のコメントでも、ファムちゃんは親身になって読んでくれる。
ファムちゃんのことを「暑苦しい」と語る、アンチも多い。
でも、世間に対して冷めた視点しか持たないボクからすると、彼女くらいヒートアップしたコメントをくれる方がありがたかった。背中を押してくれるような。
その女性が、今目の前で拘束されている。
*
「緋依さん。だから同じVの人が、ダンジョン犯罪に手を染めているのが、許せなかったんですね?」
「ええ。できれば、私だけの力であの人を止めたかったんだけど」
緋依さんが、うつむいた。
『なにが同じVだっての! ふざけんなって!』
ボクたちの会話を聞いて、テロスが激昂する。
『アタシは昔から、こんな姿だった! どれだけ避けられて、からかわれたか! アタシだって、「みんなと同じだよ」って言いたかった! でも、受け入れなかったのはそっちじゃん! だから今度は……』
テロスの声が、ひときわ低くなる。
『アタシがみんなを排除する側に立つ』
ボクは、血の気が引いた。
この人は、全員を殺す気だ。
おそらく、ルゥさんや緋依さんも、生かすつもりはない。
だったら、敵だね。
ボクは一瞬で、腕を【獣化】させた。
リーダー格の腕を、ダンヌさんの雷魔法で吹き飛ばす。
ハンターたちの動きが、一瞬だけ弱まった。
「カアア!」
【ウォークライ】で、すべてのハンターたちの足をすくませる。
雷魔法の【精密雷撃】で、殺さない程度に痛めつけた。
脚や腕を打ち抜き、ダウンさせる。
だた、「殺さない」とは言っていない。
リーダーの眉間に、爪を突きつける。
「ダンジョンから去ってください。今なら間に合います。出血多量で死にたくなかったら、ダンジョンから出ていってくれませんかね?」
「ざけんな! テロス様の部下であるオレが、そんな簡単に逃げるわけ……ひい!」
ボクは、リーダーの片目を爪で突き刺した。
「あああああが!」
目を潰されて、リーダーが悶絶する。
「他の冒険者さんたちも、あなたたちの説得に来たんでしょう。だが、返り討ちにあった。そんなところでは?」
ハンターたちからの、返事はない。図星か。
「殺したんですね。じゃ、殺されても文句は言えませんよね?」
ボクが脅すと、あれだけ威勢がよかったハンターがすくみ上がる。
「だってそうでしょ? ボクは別に依頼された冒険者ではありません。この間まで民間人でした。だから、遠慮なんてしない。する必要はないんです。これは正当防衛ですし」
「殺さないで」
女性ハンターが、命乞いをしてきた。
「どうして? ボクには、あなたたちを生かす理由もないんですが? どうして自分が助かるなんて、あなたたちは思っているんです? 奇跡なんて起こさせない。ボクは、コミックの悪役じゃないんです。命だけは助けてあげますが、二度と人を殺せない身体にはなってもらいますよ」
ちょっとイジワルをして、ボクはチョーコ博士のマネをしてみる。
命乞いをしたハンターが、あんぐりと口を上げて涙を流し始めた。
「いやだ!」
「ヤバイ。こいつは本気だ! 逃げろ!」
足を引きずりながら、ハンターたちが逃げ去っていく。
「……本気だったの? あいつらを殺すって」
「そんなワケないでしょ。今のは【アウトレイジ】。【ヘイトコントロール】の上位互換だよ」
激しい怒りによって、ボクの脅しが相手の精神を汚染するように仕向けたのだ。
もっとも相手とのレベルに大きな差がないと、ほとんど効果はないけど。
ヘイトコントロールは、今後も使える。対人戦においては、特に効果がありそうだ。
「でも怒りは本当だよ。ボクの大切なファムちゃ……いや、緋依さんを傷つけようとしたからね」
「私がファム・アルファだから、助けたの?」
「違うよ。仲間をひどい目に遭わされたからだね」
「そう……ありがとう」
「いや。ボクだってダメだね。ルゥさんに止められたのに、怒りを相手にぶつけてしまうなんて」
散々脅した後に回復させてやろうと思ったけど、逃げちゃった。
リーダー及びハンターたちに、ボクはダメージを与えていない。
軽く電気ショックを与えて、「ケガをしたように見せかけた」だけである。
もっとも、ボクのスキルで相手にはそう映っていないけど。
「ぎゃああああああ!」
だがボクたちの眼の前で、ハンターたちが本当に死んだ。
彼らに手をかけたのは、画面にいたテロスである。
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