第5話
今朝の四時頃、凛ちゃんのスマホの着信音が鳴った。
凛ちゃんは寝起きだというのに、慌てた様子でスマホ片手に寝室から出て行く。
私も着信音に起こされてリビングへ向かうと、凛ちゃんが誰かと電話をしていた。
電話を終えた凛ちゃんに「どうしたの?」と尋ねると、「ごめん、起こしたか」と困ったような顔をする。
――ちょっと急用が出来たんだ。悪いんだが、今日は車で送ってやれない。帰りも難しそうだ……。
申し訳なさそうな顔をする凛ちゃんに、私は「気にしなくていいよ」と返した。
まだ日が昇っていない時間に「急用」と言われると、普通は疑問に思うはずだ。しかし、私は前日に和住さんから、組長の話を聞いていたため、何となく事情を察していた。
その夜、私は一人で帰宅して、先に夕飯を済ませた。
凛ちゃんからは、「帰りが遅くなるかもしれない」とメッセージが送られていた。
シャワーを浴びながら、私は凛ちゃんのことを考えている。
私は亡くなった組長とは会ったこともないし、凛ちゃんとどれだけ親しかったのかも知らない。だから、凛ちゃんが今、どんな心情なのか想像できない。
凛ちゃんは落ち込んでいるだろうか。
彼が帰ってきたら、私はどんなふうに接するべきなのだろうか。
ドライヤーで髪を乾かして、リビングへ向かうと、丁度その時凛ちゃんが帰ってきた。
「あれっ?凛ちゃん?」
予想していたよりも早い凛ちゃんの帰宅に戸惑っていると、彼は黙ったままこちらへ歩み寄り、強引に私を抱き寄せた。
「……ほったらかしにして、ごめん」
凛ちゃんは私を抱きしめながら呟く。
そう言えば、こんなふうに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう?
「寂しかったか?」
私の身体に、彼の熱や心臓の鼓動が伝わってくる。
それと同時に、私は涙が出そうになった。どうやら、私は自分が思っていた以上に、寂しさを感じていたようだ。
「……ちょっと、寂しかった」
私がそう答えると、凛ちゃんはゆっくりと私の身体を放す。すると、私は彼と目が合った。
久しぶりに見る彼の熱を帯びた視線に、私はむず痒さを感じる。
「ごめん、これからは気を付けるから」
凛ちゃんは、優しく私に口付けた。
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