すくへみ

垂田穂たるたほ家――【救笑顔、宿笑顔、宿蛇】


 巨大な蛇の姿をした怪異。活動する際は、宿主を垂田穂家の者から選び、周囲の人間を無差別に毒牙にかける。その毒が最初に与えるものは多幸感だ。

 ただ生きているという事実にさえまぶしさを覚え、目に映るすべてが愛おしくなる、こんこんと胸の奥から湧き出す温かな気持ち。


 それは、この世で最後に感じる幸せだ。

 次の瞬間、犠牲者は「幸福を感じる機能」が破壊され、自我が崩壊を始める。あらゆる望みを絶たれ、生きる気力も死ぬ気力も衰亡し、無限の奈落へ。


 結果、犠牲者は笑い続ける。絶望の底また底へ落とされた人間に、唯一可能なリアクションでもって、残された命を長い長い断末魔で彩るために。

 正常な判断力。思考力。知覚力。望みを絶たれるとは欲求を絶たれること、すなわち食事も喉の渇きも睡眠も欲さず、ただ衰弱死するまで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る