帰宅部の俺に、美少女先輩マネージャーができました。
緒二葉 ガガガ文庫ママ友と育てるラブコメ
第1話 帰宅部の先輩マネージャー
高校生になってから、二ヶ月が経った。
俺が入学したのは、そこそこの公立高校。部活動に力を入れていて、特に運動部が強い。全国大会にも名を連ねる部活がいくつもある、名門といってもいいくらいの学校だった。
生徒の九割がなんらかの部活に所属し、強制ではないものの部活をするのが当たり前の空気だ。
「じゃあ俺、部活だから」
そう言って手を振るのは、クラスメイトの友人。
教室ではよく話す彼も、帰り道は一緒ではない。
「おう」
俺は手を振り返して、下駄箱へ向かう。……帰るために。
今の俺は、帰宅部だった。
「まあ、帰宅部も立派な部活だし」
そんな負け惜しみも、ランニングをしているテニス部の声にかき消される。
……最初から、帰宅部だったわけではない。
中学では野球をやっていたから、高校でも当然のように野球部を選んだ。
野球は好きだったし、中学ではそこそこ活躍したピッチャーだった。うちの高校の野球部はそれほど結果を残していないけど、その分チャンスはあるかな、なんて気楽に考えていた。
実際、俺の投球を見た顧問からの評価は上々だった。
快く思わなかったのは、先輩たちだ。
特に、二年生のピッチャーは露骨に嫌な顔をしていた。
『お前、一年のくせに生意気だな?』
『中学ではどうだったか知らねえけど、一年は球拾いだけって決まってるから』
『二度と投げられねえ身体にしてやるよ』
いい評価をもらおうと全力投球したのが間違いだったかもしれない。
入部一週間にして、俺は先輩たちに目をつけられてしまった。
俺の態度が気に食わなかったのか、ポジションを奪われることへの焦りか、妬みか。
そこから始まったのは、執拗な嫌がらせだ。
嫌がらせ自体は、耐えられないものではなかった。
無視して練習するくらい、なんてことなかったけど……日に日に、部活を続ける理由はあるのか? という思いが強くなっていった。
こんな奴らとチームメイトとしてやっていけるのか?
これから、信頼関係を築くことはできるのか?
俺が好きな野球は、こんなものだったのか……?
そう考えているうちに、野球に対する熱量がなくなってしまっていた。
そして、今日。俺は退部届けを提出したのだった。
「帰ったらなにしようかな」
思えば、中学でも部活漬けの毎日だった。
おかげで、なにもない放課後の過ごし方がわからない。
まだ日が高い時間に、俺は校門を出た。
「あれ、
声の方に視線を向けると、見覚えのある女性が校門の横に立っていた。
「
「やほ」
ひらひらと手を振るのは、
むさくるしい野球部の中で唯一の癒やしで、大人っぽい雰囲気の美人だ。部活動紹介で前に出た時は、一年生の間でざわめきが起こったのを覚えている。彼女目当てで野球部の入部を決めた一年生も何人かいたくらいだ。
改めて見てみると、本当に綺麗な人だ。
たった一歳しか変わらないのに、ついこの前まで中坊だった一年生には刺激が強すぎる。
面倒見もよくて、紋葉先輩がマネージャーなのは野球部の一番の長所だ。俺が投球した時に一番褒めてくれたのも、彼女だったな。
……でも、なんでここにいるのだろうか。
「先輩、今日は部活じゃないんですか?」
「んー、辞めちゃった」
「……は?」
聞き間違いだと思った。
紋葉先輩はマネージャーとして活動するのが本当に楽しそうだったから。
「私も今日、退部したんだ。だから今日から帰宅部。いえい」
追い打ちをかけるように、紋葉先輩がもう一度言った。
「なんで」
「先生から、君が辞めたって聞いてね。じゃあ私もって。本当は一茶くんを引き止めてくれって言われたんだけどね~」
「……俺のせいってことですか?」
意味がわからなかった。
思わずそう聞き返すと、紋葉先輩はあはは、と明るく笑った。
「違うよ。私もあいつらに嫌気が差したんだ。君も一緒でしょ?」
「そう、ですけど……でも先輩は一年もやってたのに」
「いいんだよ。ぶっちゃけ、マネージャー疲れちゃったしさ」
くったくなく笑う彼女は、あまり気にしていないようだった。
もう野球部ではない俺が食い下がるのもおかしな気がして、押し黙る。
「じゃあ、帰ろっか」
「あ、はい。お疲れ様です」
「違うよ、一緒に帰ろうって言ってるの」
「……はい?」
聞き返してばっかりだ。
でも、紋葉先輩の行動の意味を掴みかねていた。
「私は今日から、帰宅部のマネージャーだからね。君の帰宅をサポートしてあげよう」
聞き返しても、意味がわからなかったけれど。
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