第24話 再会
赤く巨大な門は、向こう側にほんのわずかだけ開いた。
その隙間からふたつの人影が見えたかと思うと、あっという間に走り出て、空中でくるりと回転してから、池の淵にたんっと降り立つ。
二人のうち、一人は長い黒髪で白い狩衣姿。烏帽子には
もう一人は、誰もが見上げるほど背の高い、乱れたボサボサの灰色髪に紫色の
近くへ歩み寄る二人を、ギーは舞っていた手をするりと下ろしてから出迎えた。
「……久しいな、
「ああ。妻共々、無事戻れた。感謝するぞ、ギー」
笑顔で挨拶をする涼月の一方で、真っ白な狩衣姿の夕星は無言で礼をし、手で素早く印を結び、口を開く。
「いみじくも、いのちのかがやきありて、うつしよにとじらむ」
と――
「があおん!」
「がおおん!」
門の向こう側で、黒い巨大な狼が吼えた。
「玖狼!? え? えっ」
沙夜が動揺して首を巡らせるが、こちらにきちんと玖狼はいるし、門の向こうの狼は
あちら側に居る双頭の黒い狼は、わずかに開いた門の
「ふう。なんとかうまくいったようだな」
緊張を一番に解いたのは、夕星だ。
それを受けて、周辺のあやかしを
「ゆーつづよぉ、俺、あの幅で出るのギリギリだったぞ」
「だから痩せろって言っただろ! バカ涼月」
「えー」
はだけた濃い紫の
その迫力に思わずのけぞる沙夜に気づくや、ズカズカと近寄る男は、満面の笑みで両腕を広げる。
「さーよー! あいたかったああああ」
強引に引き寄せぎゅむりと抱きしめるのだから、当然沙夜は焦った。
「えっ、ちょ、え!?」
「ちちだぞぉー! あだっ!」
後頭部を手のひらでド派手に叩いた夕星のお陰で、絞め殺される勢いからは解放される。
呆気に取られている魅侶玖を、ギーは眉尻を下げながら振り返った。
「すべては、夕星の策であった」
「うん。まだ大事なことが残ってるけどね」
ハクが苦笑すると、白い狩衣姿の白光一位は苦々しい声を出す。
「ハク様がそのような
「ううん。君たちには感謝している。沙夜の守りのおかげで、帰って来られたね。良かった」
ハクに指さされ、沙夜は手首を持ち上げた。
「え、これ?」
「そう。夕星と僕の髪で作った道しるべ。それがなかったら、そこの二人は帰って来られなかったのだよ」
「へ!?」
「
どういうことかと詰めよろうとする沙夜を、ギーが遮る。
「詳しいことは後に。涼月、
「こちらに、しかと」
ニヤリと笑って背中を親指で差す。その涼月の言葉に驚いたのは、魅侶玖だ。
「!! ハク様がお隠しになられていたのか!」
「うん。もう力の限界で消える寸前だったから、冥に渡すしかなかったんだ。沙夜の夢の中の冥門に、隠したんだよ。あ、覚えてないか。食べちゃったもんね」
「えっ!? 国宝……わたしが持っ……? えーっと、ええ……?」
動揺して膝のガクガク震えてくる沙夜に、魅侶玖と玖狼が寄り添う。
「深く考えたら負けだぞ、たぶん」
「わしもそう思う」
「えぇ……」
「冥にある宝剣を取って来られるのは、我らぐらいだろう」
事も無げに言う夕星に、沙夜は戸惑うばかりだ。
「母様はそれを見越して、
「そうだ。あちらの時の流れは、こちらと違うからな」
「それによぉ、向こうのあやかしは、すんげぇ強ぇの」
涼月が、言葉とは裏腹に洗練された
「確かに、我が
ハクがにこりと微笑んでギーを促すと、素早く手で印を切ってから右手で剣の下に手を添え、左手で上から掴んで受け取った。
「
途端に
「うん。これでしばらくはあやかしも出ないだろう……戻るよ」
「えっ」
「ハク様っ」
呆然とする沙夜と魅侶玖とは対照的に、ギーと夕星、そして涼月は、いつの間にか地面に
「さて殿下。目下の危機は去ったとて、これからが肝要」
ギーは、宝剣が戻った余韻すら許さず、厳しい。
「分かっている。犠牲が多すぎた……国を立て直すために、一刻も早く継承の儀を執り行わなければならない」
魅侶玖もまたその決意を
「あのー!」
「なんだ」
だが沙夜は、ほどけた緊張と安心感からか、徐々に体から力が抜けていくのに
「分かる、分かるんですけ……休ませ……」
とうとう、玖狼の背に突っ伏し、気絶した。
「ふは! 玖狼、そのまま離宮へ運んでやってくれるか」
「良いぞ。いつものように、添い寝してやろう」
「……そうだな。とりあえず俺も休む。ギーは宝物殿を確認後、情報収集。涼月と夕星は、明朝の朝議で説明を求めることとする。即刻九条と連携後、紫電並びに白光へ復帰、後始末せよ」
「「「は!」」」
離宮の一室で寝ていた沙夜が、魅侶玖に腕枕されているのに気づき動揺して叫ぶまで――ふたりはぐっすりと眠った。
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