第一章 第一話 「天は無慈悲な殺戮者」

――「ぅぁぁぁあ!ぅぁぁぁあ!」


元気な鳴き声が部屋に響き渡った。




「ほら~泣いちゃったでしょあなた。大丈夫でちゅよ~ママでちゅよ~」




「あ!そうだ!忘れてた忘れてた」




「どうしたの?」




「ほら。よくニュースに出てくる新しく生まれた子供が稀に特殊な能力を持ってるケースがあるていうの見かけるよな?」




「うん...それがどうかしたの?」




「本来は3歳になるまで能力の有無さえわからなかったそうなんだけど、最近研究が進んで、0歳児でも能力の有無がわかるようになったんだよ。だから、その検査を受けにハギメッシュ王国の首都にある病院まで行くんだった」




 ハギメッシュ王国――世界の最北に位置している小さな王国である。


ライズ家が住んでいるのは首都から少し離れた小さな村だった。


 その後、ライズ一家はハギメッシュ王国の首都ファイオンへと向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

「結論から申し上げさせてもらいますと、ノア君には能力があります。」




 ノアの父はその報告を聞いてなにやら浮かない表情を浮かべていた。




「どうかされましたか?」




「い、いえ。なんでもありません」




「そうですか。実は、特殊能力のある方たち限定で我が国ではとある場所に行ってもらい説明を受けていただいているのですが、この後少しお時間よろしいですか?」




「はい...わかりました」




「それはよかった。では、カウンター前にいる看護師の指示に従ってください」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ライズ一家は看護委の指示に従い、病院から徒歩10分ほどの場所にある四角い建物の地下に連れてこられた。その場所はやけに静かで暗く、人気がないようにも思えた。




 するとそこに、一人の男性が表れた。




「はじめまして。ここの管理人をしておりますヴァマリックと申します。以後お見知りおきを」




管理人を自称する男――ヴァマリックは40代前半で、髭を縦に伸ばし、やけに貫禄のある男だ。


彼は続ける。




「ここがどこなのか。と疑問をお持ちになっていると思うので、早速お話させていただきます。ここは特殊能力が確認されたお子様達の育成所でございます。主に基礎体力の向上、特殊能力の鍛錬、ミューダン討伐のための戦t」




「ちょっとまってください!」




ヴァマリックの説明遮り大声を上げたのはノアの母だった。




「育成所とか意味が分からないのですが、ミューダンの討伐ってどういうことですか...?」




「おっと。説明不足でしたか。実は1ヵ月ほど前にミューダンに襲われた哀れな家族がいらしゃったのですが、襲われたときに偶然3歳のお子様の能力が発現してミューダンを撃退した。という報告があがっておりまして。その報告を受けたハギメッシュ王国の上層部は、特殊能力者限定で育成所の設立を決定しました。お察しの通り、この育成所の目的はミューダンの討伐でございます。」




 ミューダンの討伐――それは聞こえはよいものの自殺と同等の行為である。人類を凌駕するミューダン討伐の危険性をノアの母親は身をもって体感していた。




「ここの育成所への加入はそちらで決めてもらって構いませんが、今のところ来た方々はすでに全員加入することの意思は示してもらっています」




 ここに来た全員が今と同じ説明を聞き、納得して入った。ということはにわかに信じられないが、この人は嘘は言っていない。そう言い切れる自信がノアの母親にはあった。




 そう言い切れる根拠こそが――――情報統制。


最近のテレビや新聞ではミューダン討伐に関する情報ばかりで、死者数が不思議なほど報道されないのだ。そのため、ここに加入する意思を示した者のほとんどは真実を知らずに安易な気持ちで入った人たちだと予想がついた。




「少し時間をください。」




「ええ。わかりました。無理強いはしません。もし加入する意思があるなら後日再度ここへおとずれてください」




「わかりました。」




「では説明は以上です。本日はありがとうございました。」




 ヴァマリックの説明を聞き終えるとライズ一家は足早に帰宅した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あなた、最近ちゃんと眠れてる?」




「自分の子供のことを考えると眠れなくてね。あの育成所にはなにか気味の悪いものを感じるんだ。施設に関する情報なんて一度も耳にしたことがない。とはいっても、僕たちの家ではノアの才能を十分に活かせるほどのお金もコネもないし....」




 ノアの家庭は一般よりも比較的貧しく、贅沢なんてできるほどのお金を持ちあわせていない。ましてや、能力を増強させるための強化ポーションはもってのほかだ。






「ノアに危険が及ぶ可能性が少しでもあるなら私は反対よ。いくら才能があるといっても命をかける必要なんてない。あの子には安全に幸せに生きてほしい。」




「安全か。この世界にそんな場所なんてあるのかい?自然災害はこれまでの比にならない程起きているし、天の怒りの使徒ミューダンがいつどこに現れるのかわからないんだ。ならば国が関与しているあの施設のほうが少なくともここよりも安全なはずだよ。」




「あなたの言いたいことは分かるわ。でも....」




「わかった。じゃあ3歳になるまでは僕たちが育てよう。それからの判断はノア自身に決めさせよう。あいつの人生はあいつが決めるべきだからな。」












ーーー運命は平穏をもたらすわけもなく、天・は・怒・り・の・声・を・上・げ・る・






「伏せろ!」




轟音とともに屋根が崩れる。父は咄嗟に妻をかばい覆いかぶさるようにして床に伏せた。




「やっと見つけたよね。苦労したよね。大変だったよね。疲れたよね」




瘦せ細った男は不敵な笑みを浮かべ絶望を宣告する。




「じゃあ.....殺すね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る