第44話
ズズズ……と地響きのような音が鳴ったかと思うと、落とし穴の上に格子状に土が形を変えていく。
それを何重にも繰り返すことで耐久性を上げていく。
これだけしておけば、いくら空中ジャンプのできる人狼と言えど簡単に出てくることはできないだろう。
僕と顔を下に向けるけれど、わずかに隙間を空けて空いている穴からは状況を上手く掴むことができない。
「きゅっ!」
「ありがとう、ウール」
「感謝」
僕が落とし穴の中へと視線を向けている間に、ウールがウィチタとカーリャの回復を終える。
彼自身が人なつっこいからか、ウールは他の子達よりも皆との距離が近い。
慕われるというより、好まれているといった方が適切かもしれない。
「アレスさん、どうですか?」
怪我を癒やしたウィチタ達がこちらにやってくる。
落とし穴にハメてからは、人狼の戦闘能力に応じて臨機応変に対応するつもりだった。
人狼が僕らの手に負えなかった場合は、マリーの氷とマックスの土で封印して時間を稼ぎ逃げるつもりだった。
ただマリーの視界を共有している限りでは……。
「……うん、問題はなさそうだよ。最初にウィチタ達が削ってくれてたおかげで、人狼の動きはかなり鈍ってるみたいだから」
人狼の戦闘能力は、おおよその見立てではBランクで上から数えた方が早いくらい。
なので正直なところもっと苦戦すると思ってたけど……。
(それだけ僕らも強くなってるってことなのかな)
いざという時にはすぐに動けるよう警戒をしながら、僕はマリーを通して戦局を観察するのだった――。
封鎖した落とし穴の下では、僕らの中で最も近接戦闘能力の高いジルが人狼と激闘を繰り広げていた。
「ガルルッ!」
「グラアアアッッ!!」
交差する二つの影を、火花が照らしていく。
そのうちの片方は金色の狼であるジルであり、もう片方は疲れが見えている人狼だった。
ジルの攻撃手段は噛みつき攻撃と爪による一撃、そして体当たり。
対し人狼は人と変わらぬ二足歩行なので、その分だけ攻撃の選択肢は増える。
だが押しているのは、間違いなくジルだった。
以前から頼もしい前衛であった彼は、多くのシルバーファングを従えることでその能力を開花させていた。
「ガルッ!」
加速を続けるジルの攻撃が、とうとう人狼を捉えた。
その噛みつきが、人狼の喉元に突き立つ。
どうやら先ほどと同じ場所を狙ったらしく、人狼の方も辛そうだ。
「ガアアアッッ!!」
人狼がジルを振りほどくために動こうとするが、それをマリーとマックスが魔法を使って阻害し続ける。
土魔法で足場を不安定にされ、水魔法で動きを制限されてしまえば、いくら強力な力を持つ人狼と言えど踏ん張って力を入れることができない。
「ガ……ア……」
ジル達に必死に抵抗していた人狼の動きが徐々に鈍くなっていき……そのままドサリと地面に倒れる。
「いよしっ!」
思わずガッツポーズをすると、その意味を理解したウィチタとカーリャがこちらに駆けより……抱きついてきた!?
「わっぷ!?」
「やりましたね、アレスさん!」
「私達の、勝利!」
「うん、そうだね……僕達の、勝利だッ!」
こうして僕達は無事に人狼の討伐に成功し、森の異変の元凶を取り除くことに成功したのだった――。
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