第18話
普通の魔物と聖獣を見比べる方法は簡単だ。
それは、色の違いである。
ジルがシルバーファングなのに金色であるように、ファイアスパロウのマリーが青色をしているように、よく見ると彼らの体色は通常の個体とは異なっている。
ただ僕は目の前のこの子の元の個体を知らない。
けれど僕の『テイマー』としての嗅覚が告げていた。
僕はこの子をテイムすることができる……と。
怪我の様子を確認するために、くるりとひっくり返す。
毛の内側にはいくつも傷があって、肉付きもあまり良くない。
このまま放っておくと、かなり危なそうだ。
そのボロボロの姿は、僕にあるものを想起させる。
それは――以前の従魔の皆の姿だ。
今は元気に暮らしているマックスやビリー達も、最初からあんな風に明るかったわけではない。
獣人達からは聖獣として扱われている彼らは、魔物という共同体の中では異分子だ。
故に遠ざけられることや嫌われることも少なくなかった。
実際ジルなんかは、僕と出会ったばかりの頃はかなりすねた子だったしね。
そんな子達を見ると、僕の心は痛む。
そしてだからこそ……
「助けてあげなくっちゃ、いけないよね」
僕の『テイマー』というジョブは、あまり好まれるものではない。
なかなかパーティーに入れてもらえなかったり、理不尽な目を受けたりしてきた僕には、彼らの気持ちがほんのわずかにわかる。
だからこそ寄り添ってあげたいと、そう強く思うのだ。
そっと優しく撫でるように、毛玉の子のお腹に触れる。
身体はどくどくと脈打っていて。体温が人肌より高いからか、しっかりとした熱を感じた
「……きゅっ?」
薄く目を開いた毛玉が、こちらをジッと見つめる。
僕はそれを見つめ返しながら、手を使って身体をまさぐる。
「きゅっきゅっ」
くすぐったそうな顔をされたかと思うと、ぺろりと手を舐められた。
どうやらあまり人見知りはしないタイプらしく、楽しそうだ。
ただ不安を感じているからか、そのつぶらな瞳を揺らしながらこちらを見上げている。
大丈夫だよ、大丈夫。
僕はそっと『テイマー』のスキルを発動させた。
「――テイム」
僕と毛玉の子を、緑色の光が包み込んでいく。
僕のテイムは、強引に魔物を従えるスキルではない。
これはあくまでもお互いの同意がなければ、スキルは発動しない。
結果は――無事成功。
僕の魂の回廊にまた一つ、新たな従魔が加わったのがわかった。
テイムが成功したのなら、次にすることは決まっている。
「君の名前は――ウールだ」
「――きゅっ!」
どうやら気に入ったらしく、しきりに首を縦に振っている。
次に従魔強化を発動させると、ぱああっと身体が光り始める。
光が収まるとそこには――さっきよりもふもふ度を増して丸っこくなったウールの姿があった。
身体が大きくなったので体力はついたと思うけど、毛の下に見えている傷が消えたわけじゃない。
「もきゅっ!」
ウールがぽよんと跳ねると、その身体が光り出す。
そしてみるみるうちに――身体の傷がなくなっていった!
「これは……回復魔法?」
回復魔法は僕のパーティーだと『セントプリースト』のヒメが使っていた、人の怪我や病気を治すことのできる魔法だ。
使い手のかなり数が限られているレアな魔法だ。
少なくとも魔物で回復魔法を使うことができる個体は、極めて少なかったはずだ。
多分だけどこれが……ウールの持っている特別な力なんだろうな。
「きゅっ」
元気を取り戻したらしいウールが、大きく跳ねる。
そのまま僕の頭の上に乗ると、楽しいからか陽気なリズムで鳴き始めた。
ふぅ……とりあえず手遅れになる前に間に合って、良かったぁ。
安心しながらくるりと後ろを振り返ると、そこには……
「私は……私は奇跡を目撃致しました!」
「す……すごいすごい! アレスさん最高!」
興奮しているマーナルムの年長組の姿があった。
ウィチタなんかなぜか感激しながら滂沱の涙を流しているし、エイラちゃんはテンション高く飛び跳ねている。
エイラちゃんのジャンプに合わせて、ウールも僕の頭の上でもぞもぞ動き出す。
ちなみに少し視線を外してみると、ジルやマリー達従魔組は新顔のウールに、優しい顔を向けていた。
「きゅきゅんっ!」
自分が歓迎されていることがわかり、ウールが楽しそうに鳴いた。
こうして僕らに、また新たな仲間が加わったのだった――。
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