第4話
まずは獣人の皆の住居作りをしなくちゃいけない。
幸い従魔の皆用の小屋は半分ほどできあがっていたので、とりあえずそれを流用する形で雨風をしのげる家を作っていくことにしようかな。
既に完成している二つはマックス用とジル用でサイズも大きいので、少し弄ればそのまま雑魚寝ができる小屋が作れそうだし。
「せっかくできたばっかりなのに、二人ともごめんね」
「わふっ」
「……(にゅるん)」
気にしなくていい、という感じでジルがぽふりと尻尾をぶつけてくる。
マックスの方は身体を左右にくねくねと揺らしている、どうやら必死に問題ないと伝えてくれているらしかった。
「チュチュンッ!」
「ピーッ!」
「……(ぽよん)」
肩に留まってこちらを見上げるビリーとマリーも、本当に気にしてはいなそうだった。
ただシェフは自分用の小屋を楽しみにしていたからか、いつもより弾力が少なくでろーんとしているような気がする。
ご、ごめんねシェフ……。
「「「……」」」
僕が皆と戯れていると、獣人の人達が狐につままれたような顔をしながらこちらを見つめているのがわかった。
「どうかしましたか?」
「い、いえ……アレス様は本当に、聖獣様達を従魔にされているのだなと驚いておりまして……」
そういって答えてくれるのは、皆のまとめ役をしているというウィチタさんだ。
均整の取れた、しなやかで引き締まった身体をしている。
かわいらしいというより綺麗系で、顔もすごく整っている。
リアとヒメと接して慣れていなければ、キョドってしまっていたかもしれない。
「様付けはやめてください、そんなに偉い人間ではありませんから」
「わかりました、ではアレスさんと。それと言葉遣いももっと砕けた形で大丈夫です」
「……うん、わかったよ」
様付けだと流石にむずがゆいけど、さん付けなら問題ない。
僕も同じくさんづけだしね。
「それじゃあとりあえず、一緒に小屋作りを手伝ってもらってもいいかな?」
「は、はいっ、もちろんです!」
小屋を作るための木材とレンガは既に用意してあるので、後は皆で力を合わせて作っていけばいい。
「わー、これ面白いねー」
子供達は積み木をしている感覚なのか、楽しみながら土台の部分を作っている。
「……(にゅるん)」
「わっ! せいじゅうさま! ありがとうございます!」
マックスは子供達が積み立てて曲がってしまった部分を、土魔法を使って綺麗に成形し治していた。
獣人の女の子は目をきらきらと輝かせながらマックスのことを見つめている。
マックスの方はそういう視線に慣れていないからか、僕と従魔をつなぐ魂の回廊を通じて戸惑いのような感情を抱いているのがわかった。
こんな風に強い感情を抱いた時、僕らは魂の回廊を通すことでそれが相手に伝わってしまう。
つまり僕も従魔も、相手に隠し事はできないのだ。
「マックス、素直に喜んでいいんだと思うよ」
僕の言葉を聞いた彼は、そのまま地面にぺたりと身体をつけてから軽く頭を下げる。
「かなり身体能力が高いみたいだね」
「はい、我らマーナルムは魔力を使って身体強化を使うのが得意なのです!」
ウィチタさんはこちらと話しを続けながらレンガを両手いっぱいに持ち、ひょいひょいっと飛び上がりながら寸分の狂いもなくレンガを並べてみせる。
獣人はグループを作って集団で生活をするという話を聞いたことがある。
なるほど、彼らはマーナルムっていうグループなのか。
(……とんでもない運動神経とバランス感覚だ)
流石に彼女は特別みたいだけど、合わせて二十人近い獣人は皆大人顔負けの力と運動能力を持っていた。
きっと大人になれば、すごい冒険者になれるに違いない。
皆が頑張ってくれたおかげであっという間に小屋が完成した。
小屋を使うグループ分けはウィチタさんに任せる。
向こうで色々と話し合うこともあるだろうし、僕はジル達と一緒に食料の確保に動くことにした。
僕達に必要な分しかないし、今後のことも考えると食料はあればあるだけいいだろうからね。
「さて、それじゃあ久しぶりに……本気でやろうか」
「わふっ!」
久しぶりに本気を出すからか、ジルは嬉しそうだった。
魔物を狩りすぎても肉を腐らせちゃうだけなので今まではペースを抑えてたからね。
二十人分の食材を用意するとなると、どれだけあっても問題なさそうだ。
背中に乗ると、ジルが風と一体化しながら駆ける。
頬に風を浴びながら、感覚同調を発動。
ビリーとマリーと視覚を共有しながら、高高度からの情報を頼りにジルを獲物の居る場所へと導いていく。
奇襲でなんとかできそうな魔物ならジルに不意打ちで仕留めてもらい、それが厳しい場合は空から下りてきたビリー達と力を合わせて魔物を討伐する。
敢えて死体から血を流して他の魔物をおびき寄せながら、とにかく大量に魔物を仕留めていく。
するとすぐにあっという間に魔物の山ができあがった。
ビリーに人手を呼んできてもらい、力強い獣人達の力を借りて運搬をすれば、小屋の前にぎっしりと魔物の素材が並んだ。
「す、すごい、あれほど苦戦した魔物がこれほど大量に……」
どうやらウィチタさん達はどうしようもない場合を除いて、魔物を避けながら進んできたらしい。
たしかに長い距離を小さな子を連れながら歩くのは、想像を絶するほどに大変だっただろう。
運搬が終わった女性陣にもうひと頑張りしてもらい、一緒に料理を作っていく。
「無理をなさらずとも料理くらい、私達が……」
「いや、大丈夫。まだまだ元気が有り余ってるからね。それに困った時は、お互い様だし」
むきんと力こぶを出しながら笑う。
強がりややせ我慢とかではなく、僕は本当にまだまだ体力的には余裕があった。
『ラスティソード』に居た時、僕はとにかく足を使う必要があった。
テントの設営から食事から夜営に至るまで、戦闘以外のことはほぼ全て僕の担当になっていたからだ。
ちなみに金銭管理やギルドとの折衝、宿屋や夕食の手配なんかも僕がやっていた。
依頼で皆と同じだけ歩いてからそれら全てをこなさなくちゃいけなかったので、嫌でも体力はついている。
なので本当に、体力的にはまだまだ余裕があるのだ。
僕は本心で言っていたつもりだったんだけど、なぜかウィチタさんはこちらを潤んだ目で見つめてくる。
彼女はこちらをジッと見つめてから、僕の手をそっと取った。
「ありがとうございます……アレスさんと出会えたことは、私達にとって、何よりの幸運でした」
柔らかい両手で手をにぎにぎされて、思わず胸が跳ねる。
その瞳は少し潤んでいるようにも見えた。
明日がどうなるかもわからない状態で、子供達を引き連れての脱出行。
どれだけ厳しかったのかはわからない。
ただ一つわかるのは……
「僕もウィチタさん達と会えて良かったよ」
僕の本心からの言葉を聞いたウィチタさんは顔をくしゃっとゆがめると……そのままぽろぽろと涙を流し始めた。
「だ、大丈夫っ!?」
「大丈夫じゃ……ないかもしれません」
彼女が顔を上げる。
泣いてはいるけれど、そこに浮かんでいるのは悲壮な表情じゃない。
ウィチタさんは……泣きながら、笑っていた。
僕がもらい泣きしそうになっていると、彼女はきゅっと握る力を強めて言った。
「改めて……よろしくお願いします、アレスさん」
ウィチタさんの笑顔は、びっくりするくらいに魅力的だった――。
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