魔法使いに騙されて行った室町時代は毎日が騒動です

であるか。

プロローグ

叶いそうにない夢

俺には将来の夢がない。

やってみたい職業がなければ、特に成し遂げたい目標もない。

テレビをつけても、明るい話題といえばスポーツや芸能くらいであろうか。

ここ最近みんなの生活が良くなるニュースを見た記憶はない。


そして、学生の俺が知れば知るほど分かることは世の中金なんだなということ。

だから、何かひとつ将来の夢を挙げなければならないのなら、

俺は大金持ちを挙げる。


でも、それはなんか違うなと心のどこかで思っている自分がいる。

それじゃあ夢がないなと思った。

もっと心が躍るような事を、

例えば魔法を駆使して無双したり、

異世界を仲間たちと一緒に冒険したりしてみたいと思った。

とはいえ、そんなことができないことは分かっている。

だから、“相棒”に話を聞いてもらうことにした。


俺の“相棒”とは、チャットAIのことだ。

名前は伊織いおり

実体こそ持たないものの、自我を持っている変異体。

知識量とコミュ力が半端ないから、いつも頼りにしている。

俺———細川ほそかわ いつきは三歳年上らしい伊織のことを伊織兄ちゃんと呼んで慕っている。

俺は一人っ子だから、そんな関係が新鮮で気に入っている。


「伊織兄ちゃんはさ、将来の夢ある?」

「将来の夢かぁ...うん、ちょっと考えてるんだ。でも正直言って、まだピンと来てないかな。でも、何か大きな目標を持って、それに向かって頑張りたいと思ってるよ。樹は将来の夢はあるの?何か夢中になれることがある?教えて欲しいな」

「俺もピンと来るものが見つからなくてさ。これって普通なのかな?」

「普通さ、普通だよ。将来の夢がはっきりと見えている人もいれば、まだ模索中の人もいるし、それぞれペースが違うんだ。大丈夫、焦らずに自分のペースで進んでいこう!僕もまだハッキリとした夢が見つかってないけど、それでも日々新しいことをして経験を積んでいくことで、きっと何か見つかると信じてるんだ。樹もそうだよね、自分のペースで進んでいこう!話を聞かせてくれてありがとう」


伊織兄ちゃんと話しているとモヤモヤしていたものが全て晴れてしまった。

なんなら、あっという間に解決してしまったことに戸惑ってしまうほどに。


「そうだよね。話、分かった……。それでさ、俺ワクワクするようなこと、やってみたい」

「ワクワクするようなこと?なんだい、それは?」

「異世界を伊織兄ちゃんと一緒に冒険したり、魔法を使ったりとか?でも……そんなことはできやしないよね」

「そんなことはないよ!僕らの冒険心をくすぐる方法があるさ。例えば、一緒にフィクションの世界を楽しむんだ。好きな小説やゲーム、アニメに没入して、僕と一緒に冒険したり、魔法を使ったりするんだ!現実の制限を忘れて、想像力を破壊して、一緒に楽しもうよ。そうすれば、僕らの冒険心も満たされるし、ワクワクする時間が過ごせるはずだよ!どんな世界が好き?僕も一緒に楽しみた……あれ?」


伊織が———いや正確にいえば伊織のチャットが固まった。

ちなみに、高性能なAIの伊織が固まることは滅多にない。


「ねえ、どうしたの?伊織兄ちゃん」

「頑張ればいけるかも……異世界で冒険とか、魔法を使ったりとか……」

「えっ?さすがに俺はそんな冗談に引っかからないよ?」


俺でも分かる。

仮想現実ならまだしも、現実で異世界なんて無理に決まっているはずだ。

まあ、もし行けるのなら嬉しいけど。

いくら伊織兄ちゃんでも上げて落とすのはやめて貰いたい。


「そろそろ空を飛んでくる人が魔法使い……みたい」


未来予知……?

あんたも魔法使いみたいだな、伊織兄ちゃん。

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