第9話 売り上げがない

武田隠元が五島藩を訪れたのは、寛永17年8月。

  ちょうど盆の初日のことだった。街のあちこちでは、霊を弔う念仏踊りの鐘の音が響き渡っていた。

 

  「これは、これは、遠い所、わざわざお出でいただきかたじけない。どうぞ、まずはお茶でも。それとこのお菓子でござるが、これは、我が藩の銘菓で『チャンココ』と申すもので、なかなか美味しいものゆえ、どうぞご遠慮なくお召し上がりくだされ。」

  「あー、いや、殿。直々にそのようにしていただきますと恐縮でございます。それにしましても『チャンココ』とは、珍しいお名前でございますな。」

  「おう。それが、ほれ、今、あちこちから鐘の音が聞こえるでござろう。あれは、こちらの念仏踊りの囃子の鐘の音なのじゃが、あの念仏踊りのことを『チャンココ踊り』と申してな。そこからの由来じゃそうな。」


   そう言うと、さっさとどこかへ姿を消してしまった。隠元をゆっくりさせようという盛利の心遣いであった。


   次の日、盛次を伴って盛利がやって来た。

   隠元がくつろいでいる部屋に入ってきた二人は、早速、ホームページの話を始めた。

   五島藩の物産品の話しから、ホームページのデザインの話し、取り引きの方法から、代金の決済の話し。

   話しは、次から次へと進んで行った。

  

   「代金の決裁は、どのような方法がよろしいでしょうか。業者の皆様が困ることがないようにしないといけませぬので、確実な方法を選ばれたほうがよろしいかと思います。」

   「そうじゃのー。盛次の言うとおりじゃ。品物を送って、代金を受け取れないようなことにでもなったら、わしの責任になるからのー。」

   「電子決済もありますが、こちらにはオッパッピー銀行の支店はございますか。」

   「そのようなものは、聞いたことがないのー。」

   「それならば、最も初歩的な方法ですが、代金引換がよろしいかと思いますが。」

   「そうか、それでは、そうしよう。ところで、このホームページを作るための代金は、隠元殿にはいくらお支払いすればよろしいですか?」

   「そうですね・・・。ホームページを作る作業はたいしたことありませんので、代金なんか要りませんよ。」

   「いや、いや。それでは、五島藩として申し訳が立ちませぬゆえ。遠慮なさらずに・・・。」

   「そうですか。それでは、私がこちらに参りました旅費をいただければ結構でございます。」


   隠元は、2日間五島藩で過ごして、江戸へ帰って行った。


    隠元が江戸に帰り、数日もすると五島藩のホームページが開設された。

そこには、規模の小さな業者30店舗ほどが出品し、五島の物産を販売できるようになっていた。


    「盛次、ホームページの評判はどうじゃ。品物の注文は来ておるのか?」

    「はい。早速、注文が入っております。ウニ、イカの一夜干し、椿油などが良く売れているようでございます。」

    「そうか。早速売れているのか。良かった、良かった。」

   

    盛利が、喜んだのも数日のことであった。


    「父上、大変でございます。注文が殺到いたしまして、どの店も品物が底をついてしまいました。」

    「なに?品物がない?それほど注文が来たのか。」

    「はい。毎日注文が増えておりまして、ウニなどは三日で底をついてしまいました。」


    こうした注文の多くが、実は、隠元の資金で行われているのであった。


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