第3話 藩制問題研究所
場所は変わり、ここは江戸。
時は、寛永17年1月。
江戸にある武田隠元の「藩制問題研究所」には、あるプロジェクトが持ちかけられていた。
「今回は、ちょっと大きなプロジェクトだ。無題君、君は五島藩の資料を集めてくれないか。」
社長の武田隠元は、部下の無題勝山に新たなプロジェクトの下準備を指示していた。
「どんなプロジェクトですか。」
無題は、聞いた。
「すまんが、まだ、君達にも話すことは出来ないんだ。」
すると、秘書の西山須美子が心配そうにつぶやいた。
「私ゎ、なんとなく、そのルート知っているわけよ、で、ちょっと、気になるわけ。でも、これも仕事だし、なんとか処理しないといけないわけよ。でも、でも、やっぱり怖いルートだって思うわけ。え?怖がっているのは誰だって?あたしだよ!!」
「パッパパヤーパー、パッパパヤーパー、パヤパー、パッパパヤーパー。私は~、五島藩に~行きます~~。五島藩に~行って~~、五島藩の事を~調べます~~。五島藩の~昔から~~、現在のことまで~~、調べて来ます~~。そして~、それを~~A4の用紙に~横書きにして~~、レポートとして~~、社長に報告します~~。」
「あんたは、呑気だよ。なんでも上から下に流したり、左から右に流せば良いってもんじゃないんだよ。」
そんな社員達のやり取りを聞きながら、社長の隠元は悩んでいた。いわゆるコンサルタン業を営んでいる隠元にとって、毎月の営業に困るようなこともなく、それなりに成果は収めている。二人の社員と自分の生活を保障するには、現在のレベルの事業で十分といえば十分であった。
今回のプロジェクトが成功すると、それこそ見たこともない巨額の資金を手にすることが出来る。しかし、コンサルタント業として扱ってきたこれまでの案件とは、まったく性格の違う事業であり、その結末は到底自分たちの手の届くレベルのものではないことはわかっていた。それだけに、得体の知れない不安が胸をよぎるのであった。
そもそも、今回のプロジェクトは、隠元がアドメニア合衆国に留学中に知り合ったボッシュから、持ちかけられたものであった。
ボッシュは、現在、アドメニア合衆国国防総省の極東戦略研究所の研究員である。
そのボッシュから電話があったのは、寛永16年11月のことだった。
「隠元、元気にしているかい?ちょっとしたビジネスの話があるんだけど、会ってもらえるかい?」
「ああ、久しぶり。お前の言うことだから、何時でもいいよ。」
電話が終わって、数分もするとボッシュはやって来た。
「おい、おい、ちょっと早過ぎないかい?」
「ああ、いや、すまん。断られても来るつもりで、昨日、日本には来ていたんだよ。昨夜は、新宿2丁目で楽しんじゃったよ。」
「まだ、そんな遊びやっているのか。それで、話しというのは・・・。」
「そうだな、ちょっと場所を変えたいんだが。」
「じゃあ、近くで昼食でも一緒にするか。」
隠元はそう言うと、社員には何も告げずボッシュを連れて出て行った。
隠元が、帰ってきたのは4時間ほど過ぎた、もうすっかり夕暮れた頃だった。
夕暮れの江戸は、煮売屋(にうりや)が天秤棒を担いで売り歩く声や、店を構えた煮売屋の呼び込みの声で賑わっていた。
当時の江戸は、各藩から出張している下級武士や出稼ぎ人夫が多く、それらの人々は当然単身赴任であったため自炊をしており、惣菜などを買い求めることが多かったのである。
煮売屋があつかっていたのは、煮魚、野菜の煮しめ、煮豆、焼き豆腐など、手っ取り早くおかずになるものであった。
そうした売り手買い手の喧騒を背に、隠元は帰ってきた。
事務所に入った隠元は、社員に話しかけることもなく、無言のまま机に座ると、窓越しに江戸城に眺め入ってしまった。
「社長、私達帰りますね。」
そう秘書の西山が告げても、隠元は振り返ることもなかった。
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