狐が嫁入りしてきてから魑魅魍魎と触れ合う日々が始まった(仮)

ケンタン

第1話

 ちくしょう、ちくしょう、なんなんだよ一体、俺が何したっていうんだよ。しかも、冤罪だったと判明したのに俺を犯罪者扱いしやがって。


 信じていた友人も、俺のそばから離れて会社もクビになって、俺に残ったのはほんの僅かな貯金だけだ。


 だがこれだけで、生きていくの厳しいのがこの世界の真実だ。もう生きていくのもしんどいし誰も俺のことを求めることはないだろうからいっそのこと死んで来世に期待すがるしかないかな?


 俺は、死んだことで再び人前に晒されのが嫌だった。なんの関係の無い冤罪のせいでネットなどで、犯罪者として全国に晒されたので死ぬ時くらい誰にも見つからない場所で最後を過ごそうと身の回りを整理して誰も来ないであろう森の奥を目指して歩き出した。


 は〜は〜と全身から滝のような汗を流しながら森の奥に進んでいく。

 これだけ奥に来たら人なんて誰も来ないだろうな。完全に人の気配は無いし獣道がたまに見つかるくらいだ。

 

 更に奥に進むと、どこからか分からないが苦しそうな声が聞こえてきたので足を止めて、その声が聞こえてくる方向に向けて足を進める。


「くっく〜くーん」鳴き声の先に居たのは全身が血まみれでぐったりと弱りきっていた狐が一匹いた。


 おいおい今にも死にそうじゃないかよこの狐、だけどこいつの目はなんだろう。生きることを諦めず必死に生きようとしているのを感じる。

 まるで今の俺とは正反対だな。俺は生きることを諦めてるのに対してこいつは必死に生きようとしている。


 死ぬ前に、いいことしたら来世できっといいことあるかもしれないよな?今ならまだこいつを救ってやることが出来るかもしれない。

 

 俺は体が汚れるのを気にせず、傷ついた狐を優しく抱きかかえて、来た道を戻り動物病院にすぐさま向かい治療してもらった。


「衰弱はしていますが治療はしましたので安静にしていればまた元気になるでしょう。しばらくはこちらで預かっておきますので元気になりましたら迎えに来てあげてください」


 助けた狐は、治療が間に合い命を無事取り留めることができた。

 神様死ぬ前に、いいことしたんだから来世は頼むぜーと祈りつつ、狐を引き取らなければきっと保健所に連れて行かれてしまうので、俺はすぐに死ぬことはできなくなってしまった。

 狐を引き取ったらまた山に返してそれから死にに行くとしようと改めて考えた。


 その日は一旦家に帰ると慣れない山歩きをしたせいか部屋に着いた途端すぐに眠ってしまった。

 翌日、動物病院から思わぬ連絡が朝早く届く。助けた狐が、朝に来た職員が確認すると忽然と消え去ってしまったというのだ。

 ケージも破壊された形跡もなく摩訶不思議な状況だという。病院からは謝罪されたが俺は狐が無事ならいいなと思ったくらいで特に気にしなかった。まさかこのあと助けた狐と思わぬ形で再開するとはこのときは思いもよらなかった、そして再会すると同時に俺の人生が再び動き出す。



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