第32話032「あれ?よく考えたら怒る理由なくね?」



 炎上後、配信を終了したあと、そこで着替えをした傷心の俺は転移陣ポータルジャンプで1階層に戻り、そのまま家に帰ろうとした⋯⋯が、


「あ〜、そっか。ダンジョンの退出報告と魔石やドロップアイテムの売却しなきゃ⋯⋯」


 と思い、ギルドへ売却しに行こうとしたが、


「⋯⋯売却は今日はいいや。何かドッと疲れたし。主に精神メンタルが」


 ということで、俺はギルドにはダンジョンの退出報告だけをしてさっさと家に帰った。


 ちなみに、魔石やドロップアイテムは収納アイテム『ストレージ(最高)』に入っているので、別にそのまま持っていても盗難の心配もないので問題はない。



********************



「ただいま〜」

「おかえり、タケル」

「「お帰りなさい、タケル兄ぃ!」」


 夕方——家に戻った俺を母さんや妹たちが元気な声で出迎えてくれた。いつものことではあるが、今日に限ってはその出迎えにさっきまでの冷え込んだ心が少しあったかくなった。


 その後、俺はすぐに風呂に入り、3人は夕飯の支度に台所に戻っていった。


「「「ごちそうさまでした」」」

「はい、お粗末さまでした」


——夕食後、早速3人から今日の探索者シーカー登録の話となった。


「へ〜、これがF級探索者シーカーの登録証か〜。本当に鉄製なんだね」

「当たり前だろ」


 由美がそう言って、登録証をキラキラした瞳をしながら興味津々に触っている。


「タケル、今日はダンジョンには入ったの?」


 と、母さんが聞いてきたので、


「⋯⋯いや、今日は探索者シーカー登録をした後は、新宿御苑にある日本ギルド本部の中を見学させてもらっただけだよ」


 俺はごまかした。


 実際、俺は変装して探索者シーカー活動をしているのでいろいろ聞かれても困ると思ったのと、余計な心配をかけるのが嫌だったので何となくごまかした。すると、


「タケル兄ぃ、本当に? 本当に今日はダンジョンには入っていないの?」

「⋯⋯由美?」


 由美が少し俺を伺うような視線を送りつつ、そんな質問をしてきて俺は少しドキリとしたが、


「まー具体的に言えば、新宿御苑ダンジョンの入口までは見学に行ったぞ。日本ギルド本部のスタッフさんと一緒に」

「ふ〜ん、そう⋯⋯なんだ」


 俺は何となくダンジョンに行っていないという回答は『間違い』のような気がしたので、急遽ギルドのスタッフと一緒に入口まで行ったことにしておいた。


 由美は妙なところで鋭いので、少し警戒した感じだ。


「そう⋯⋯ならよかったけど。危ないことはなかったのよね?」

「もちろんだよ、母さん。全然・・だったよ」


 いや、本当に。ていうか、中層の階層ボスも一撃ワンパンだったし。


「え? 新宿御苑ダンジョンに行ったの?!」

「ん? あ、ああ⋯⋯」


 すると、亜美が『新宿御苑ダンジョン』のワードに反応した。


「じゃあさ、じゃあさ!⋯⋯オメガっていうDストリーマー見た?」


 ドキリンコ!


「⋯⋯いや、知らないけど?」

「えー! 知らないのぉー! あのね、オメガっていう新人のDストリーマーさんがね⋯⋯」


 と、亜美が本人を目の前にして『謎のDストリーマーオメガ』について説明した。


「亜美は、その⋯⋯オメガって人の配信を観てたのか?」

「もちろん。友達から電話があって『面白いDストリーマーがいるから観てみて!』って。だから由美と一緒に見てたんだ」

「ん⋯⋯一緒に見た」


 なるほど。だから、由美はダンジョンに行ったのかと聞いてきたのか。ていうか、身内が配信を観たってことは結構な人たちが観てくれてたんだな。


 まー今となっては炎上してすべてが無駄に終わったけど。


「それでね、何人かの視聴者さんが『あれはCGで作ったニセ映像だ』って言い出すと、それから一斉に『ニセ映像だー』って騒ぎ出してね。それで、そのオメガさんは『チャット機能オフにします』って言って本当にチャット機能をオフにしたの。で、それで今日の配信は終わったんだけど⋯⋯私は納得いかなかったの」

「何が?」

「だって、オメガさんが嘘をついているようには見えなかったもん!」

「! そ、そう⋯⋯」

「それにね、私けっこう初めから観てたけど、あれがCGで作った映像だなんてあり得ないと思うし、それ以上にオメガさんは良い人だと思ったもん。あんな人の良い探索者シーカーさんがわざわざそんなことするとはどうしても思えない! そうでしょ、由美?」

「うん。それに私から観てもあれがCGで作った映像だなんて絶対にあり得ないと思う」

「ほらぁ! 由美は動画編集とかCGとかそういったの凄いのはタケル兄ぃも知ってるでしょ?」

「あ、ああ」

「だから、私は由美の言葉を信じるし、そもそもそのオメガさんのことだって信じるもん!」

「⋯⋯亜美、由美」

「だからね、タケル兄ぃ。もし、いつかそのオメガさんと会うことができたら言っといて! 私たちはオメガさんの無実を信じているからまたチャット機能を元に戻して視聴者とのやり取りを再開して欲しいって!」

「わ、わかった⋯⋯よ⋯⋯」


 ちょっと泣きそうになった。



********************



 部屋に戻った俺はベッドに飛び込み、うつ伏せのまま今日のことを振り返る。


「まさか、配信初日で炎上なんて⋯⋯はぁ、まいったな」


 何がいけなかったのだろう?


 最初は俺の身体能力がCGに見えたと思ったけど、今思えば29階層までの魔物を一撃で破裂させているのが一番の原因だったんだろうな。


「ぶっちゃけ、どんどん魔物を倒していくにつれレベルが上がっていったから、どんどん制御が難しくなっていったんだよな〜」


 ちなみに、俺の現在のレベルは『31』。一日で⋯⋯である。


「ダンジョンに入る前が『レベル20』だったから一日でレベルが11も上がったら、そりゃ『身体覚醒(極)』の制御も難しくなるわな」


 つまり、蛇口がさらに大きくなって、よりチョロチョロと水を出す調整が難しくなったのである。


「まーこればっかりはしょうがない。それに別にオメガとなった自分なら力を出し惜しみする気はないし。ただ、魔物と真正面からぶつかって命を削るような激闘ができればいいと思っているが⋯⋯」


 しかし、現実問題。そんな魔物がいないわけで。


「となると、自分の力をセーブして魔物と激闘を演じる必要があるってことになるが⋯⋯でも、それってある意味、視聴者を騙すことになるよな〜」


 あれ? でも、そう考えたら今日の『CG映像』っていうのも演出の一つと言えるのか。だとしたら、今後強い魔物が現れなければ力をセーブして魔物と激闘を演じることになるが、それは視聴者を騙すという意味では扱いとしてはCG映像とあまり変わらないのかもしれないなぁ⋯⋯。


「あれ? だとしたら、CG映像って言われても別に俺⋯⋯怒る必要なくね?」


 そう、今後力をセーブして魔物と激闘するという演出をする気があるのであれば、俺が怒る必要は1ミリもない。


「あー⋯⋯そう考えたら、別にCGって言われても問題ないじゃん」


 解決である。


 いやちょっと待て。


「⋯⋯逆に、この炎上ビッグウェーブに全力で乗るさえある?」

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