第5話005「ダンジョンへ行こう」



「よし、やっぱりだ! この時間ならまだ『探索者シーカー養成講座』に参加できる!」


 異世界転移前の俺も世間一般同様『ダンジョン探索者シーカー』に憧れていたので、いろいろと調べていた。とはいえ、当時は「才能ないからムリゲー」と諦めていた。


「よし、これから早速養成講座を受けに行こう! 俺はダンジョンに潜って探索者シーカーとして生きていくんだっ!!」


 しかし、今の・・俺には探索者シーカーになれる『一つの可能性』があった。思いついたのは女神に「元の世界に戻ったらレベル1にリセットされる」と言われた後しばらくしてだった。


「待てよ? レベルが『1』になったとしても異世界で習得した『格闘術』ならリセットされないんじゃないか?」


 そう。たしかにレベル1になってしまうかもしれないが体に染み込んだ格闘術はきっとこの世界でも通用すると俺は思いついたのだ。


「異世界では人類最高到達点となるレベル120まで昇りつめた俺がずっと使い込んだ格闘術だ。もしも格闘術がリセットされないのであれば現代ここ探索者シーカーとして十分やっていけると思う!」


 ということで、俺は探索者シーカーとなるべく、まずは必ず受けなきゃならない『探索者シーカー養成講座』に参加するべく会場の『池袋』へと向かった。


 この探索者シーカー養成講座を行う『探索者シーカー養成ギルド』は、今いる病院から少し離れているが自宅から近い場所にある。ちなみに『探索者シーカー養成講座』は高校生以上から受講可能だ。


 ここ『池袋ダンジョン』は弱い魔物しか出てこないし階層も浅く、しかもダンジョンボスもいないので、今では誰が言ったか『探索者シーカー養成ダンジョン』などと呼ばれるようになった。


 探索者シーカーを目指す者たちは、皆この『探索者シーカー養成ダンジョン』に潜って『探索者シーカー』として認められる『レベル2』を目指す。もちろん、強制ではないのですぐにダンジョンに入る必要はない。自由だ。


「まー俺はすぐにでもダンジョンに潜るがな!」


 なんせ、今の『俺』は異世界で活躍した『格闘術アドバンテージ』があるからな。モチベーションMAXである。


 ちなみに、見事『レベル2』になると国内の探索者シーカーギルドを束ねている『世界探索者シーカーギルド協会日本支部』から『F級探索者シーカー』の称号とその身分を保証する『登録証』が与えられ、ダンジョンを自由に探索することができるようになる。



********************



 現在、俺はバスに乗って池袋にある『探索者シーカー養成ギルド』へと向かっている。


 そんなバスの車内で、俺は5年ぶりの日本の景色を車窓から眺めながらいろいろと想いを馳せていた。


「異世界に転移してから5年⋯⋯。そして、異世界から戻ってきた場所は転移前の、5年前の日本か」


 俺に、ここが5年前の日本であるかどうかなんてわからない。でも、学生服を着てあの事故現場で目覚めたのなら、やはりここは転移前の⋯⋯5年前の日本で間違いないのだろう。


「それにしても、母さんは何となく大丈夫そうだったけど⋯⋯妹たちあいつらは俺のことをどう思っているんだろうか? 転移前の俺はあいつらにもずいぶん酷いことを言ったのを覚えている。事故に遭ったことは学校から連絡がいっているだろうが、しかし、俺の心配なんてしてる⋯⋯だろうか」


 俺はそんなことを考えるとまた家に帰るのが怖くなった。


「や、やめだ、やめ! と、とにかく、今は家族のことを考えるのはやめよう!」


 そうして、俺はすぐに別のことを考えようと思った。すると、


「そういえば、中学まではいじめられたことなんてなかったんだけどなぁ〜⋯⋯」


 俺は5年前の引きこもり以前のことを思い出す。


 俺は中学までは特にいじめられたことはなかった。それに、元々の性格は自殺を考えるような人間ではない。それどころかよく友人に頼られたりすることが多かった。


 中学の友人曰く「タケル氏はいつも冷静でしっかりしているからつい頼っちゃうでござるよ〜」とのこと。


「ていうか、どっちかって言うと俺の方が中学の友人あいつに頼ってばっかりだったと思うけどな⋯⋯。まぁ、あいつらしい気の遣い方だろうけど」


 俺は中学の友人あいつのことを思い出すと、思わず車内でひとり言を呟きながらニヤニヤした。⋯⋯が「やべっ!?」とすぐに気づき慌てて口を塞ぐ。


「やば⋯⋯車内でひとり言とかただのやばい奴じゃねーか! 変な目で見られてない⋯⋯よな?」


 多感な高校生である。


********************


明日からは通常投稿(お昼12時)となります。

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