天然記念物につき11


「答えなさいよ」男を見下ろす早坂さんの目は、恐ろしいほど冷ややかだ。

それでも黙り込む男の頭を、早坂さんが片手で掴み、こちらを向かせた。

「お耳が聞こえないのかしら?」


早坂さんが悪魔にしか見えない。「どうして、わたしの事つけてたんですか?」


「・・・俺はただ、話がしたくて・・・別に何かしようとしてたわけじゃない」


「だからって、つけていいとでも思ってるわけ?」


「話しかけられなかったんだ!だから、コンビニから出て来たら、話しかけようと・・・」


「そもそも、何の話があるわけ?」早坂さんの威圧感に、おじさんはたじたじになっている。


「わたしに何の話があるんですか?答えてください」


「5秒以内に答えないと、今すぐ警察呼ぶわよ」


「・・・ひっ、一目惚れしたんだ!」


わたしも早坂さんも、言葉を失った。「・・・えっ」


「最初飲みに行った時、一目惚れして・・・話しかけようと思ったんだ。でも、なかなか席に来ないし、周りの目もあるし、だったら店が終わった後に話しかけようと・・・」


「話しかけて、そのあとは。どうするつもりだったの」


こんなに苛立っている早坂さんは初めてだ。

男はまた黙った。


「5、4、3・・・」


「れっ、連絡先を聞くつもりだった!それだけだ!だから、警察はやめてくれ・・・頼む・・・」


早坂さんは、唸るように息を吐いた。「雪音ちゃん、どうしたい?」


やっと、わたしに発言権が回ってきた。──この人、やり方は間違ってるけど、たぶん嘘はついていない。


「おじさん、わたしはおじさんに連絡先は教えません。警察も呼びません。そのかわり、もう2度とお店には来ないでください。いいですか?」


おじさんは、すぐに頷いた。前科がつくリスクを犯すほど、わたしに執着はないだろう。


「悪かったよ・・・本当にただ、話したかっただけなんだ。怖がらせて申し訳ない」


「納得いかないわね」早坂さんの言葉は無視する。


「もう行ってください」


おじさんは申し訳なさそうに一礼すると、背中を丸めて去って行った。

これで終わったと思ったから、早坂さんが追いかけたのは想定外だった。


肩を掴み、こちらを向かせる。手に持っていた帽子を雑に被せると、おじさんの耳元に顔を寄せた。

冷静に戻ってくる早坂さんの後ろで、硬直してるおじさんが見えた。











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