困惑13
翌日、お母さんはいつも通りだった。毎朝の変わらないやり取りに、ホッとした。
お母さんは、あの事に一切触れない。だから、わたしもそうした。
学校では相変わらず未来ちゃんに無視される日々。話をしてくれる子はいたけど、心の中にぽっかりと空いた穴が埋まることはなかった。
そのまま数週間が過ぎ、このまま時間と共に嫌な記憶も全て薄れていくんだろうと思った。
──また、あの子に会うまでは。
わたしの足は、勝手に向かっていた。
あの日、未来ちゃんといたジャングルジム。あの子は、そこにいた。あの日のわたし達のように、1番上に座っている。
ジャングルジムに衝突する寸前で足を止めた。キッと見上げるが、こっちを見ない。
「なんで、あんなことしたの」わたしの問いかけには応じず、遠くを見ながら足をぶらつかせている。「ねえ、聞いてるの?答えて!」
反応は、ない。わたしは鉄パイプに手を掛け、1段、2段とかけ上がった。そして5段目を掴んだところで、その子がジャンプして飛び降りた。わたしもほぼ同じタイミングで飛び降りる。
逃げようとしている。──逃さない。
着地と同時にその子の手首を掴んだ。ここで、わたしを見た。大きな目が赤く染まる。わたしは、ひるまなかった。掴んでいる手に力を込め、自分に引き寄せた。
「なんで、あんなことしたの。なんで・・・なんで、雪音にしか見えないの!」この手の感触は、幻ではない。確かに、ここにいる。
「キャキャキャッ」耳をつんざくような笑い声だった。開いた口から鋭いキバを覗かせる。一瞬ぎょっとしたが、手は離さない。
するとその子は、掴んでないほうの手をわたしに向けた。指を曲げ、引っ掻くような手振りをする。挑発するように。
「雪音、こわくないよ」と言ったものの、それはすぐ嘘になった。
みるみる爪が伸びていく。掴んでいた手が少し緩んだ。手こそ小さいが、その爪は鋭く、あっという間に10センチ程の長さになった。
鼓動が早まり、身体が勝手に後退る。そして、その手を振りかぶり、攻撃体制に入った。
「キャーキャキャッ」わたしの手を目掛けて振り下ろされるその爪が、肌に当たるギリギリのところで手を離した。
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