第一章 帆船の女王
第3話 南北戦争
3.南北戦争
1人100ポンドの身代金を支払ったので、アインス商会は3000ポンド私掠船に支払ったことになる。
「売り飛ばされなくて良かったか」と、呟いたのは支店長のフィリップスだ。
それを聞いて苛立っているのは、番頭的存在で副支店長のハブリエルだった。
だが、船員の中にも荒っぽいものはいる。
副船長のヘニーだ。
「船長は、いつから腰抜けになったのだ」と。
彼の言う「いつから」とは、どういうことだろうか。
「昔の船長なら、闘ったはずだ。早々に降参などしなかったはずだ」
そう、ハインリッヒ船長は勇敢な男であったが、この日はあっさりと降参してしまったのだ。そのことへ、幾人かの船員は不満を持っているようであった。
何故、彼は昔のように勇敢でなくなったのだろうか。
「ヘニー、そう言ってくれるな。今回は初の遠洋航海に出た者もいる」
「ヴィレムのことですか。彼も二等航海士になったんだ。これぐらいの覚悟はしているはずです」
そう、二等航海士のヴィレムは、少々、小柄な少年だ。そして、どことなく中性的な雰囲気がある……
いや、話を戻そう。
彼は、今までは短距離の航行を甲板員として乗船していたが、二等航海士となり初の大西洋を渡ったところ、この度の私掠船と出くわしたということだ。
ヨーロッパ近郊では戦闘など起こらない時代。武装したブリック船では右往左往していたのだろう。
しかし、船長は彼を気にして身代金を支払うことになったのだろうか。
船長は支店長室のドアをノックした。
「入り給え」
「失礼します」
二人は顔を合わせた。
船長は、身代金を払わせたことに引け目を感じているようだったが、支店長は二度、三度頷き、船長を座らせた。
「ハインリッヒ船長、君の判断は間違っていない。もし、船員が連れ去られることになっていたら会長から叱責を受けることになっただろう」
「支店長……」
「だが、積荷を失っただけでなく、身代金3000ポンドは安くは無い。幾らか挽回しないと私たちの首は飛ぶことになる」
「ええ、わかっております。支店長」
その頃、商会のドックでは、副船長のヘニーが「船長が腰抜けになったのなら、オレたちで船を動かそうじゃないか」と、他の船員に声をかけていた。
それに賛同する者、戸惑う者、反応は様々であった。
だが、アメリカ大陸は南北戦争が勃発して以来、海上封鎖が始まり、貿易ルートが確保できなくなっていった。
「我々は、どこと取引をすれば……」
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