ティー・クリッパーの女王
師走とうか
序章 最後の帆船
第1話 最後の帆船
1.最後の帆船
蝋燭は消える間際が、最も明るいという。
帆船の歴史においても同じで、最後の帆船“クリッパー船”が最も大きく、最も速く、最も美しいのは、帆船の歴史が終わる間際だからだろうか。
帆船の女王であるクリッパー船が去った大海原には、黒煙を立ち上げ、煤を撒き散らす蒸気船が闊歩するようになった。
白い帆を掲げ、大海原の最速を競った海の女王達は、もういない……
あるものは難破船と化し。
あるものは海軍の実弾演習の的とされた。
だが、あの日、あの時、女王達は青空の下、白い帆を掲げ、世界最速を目指し世界の海を駆け抜けた。
今年の新茶を最初にテムズ川まで運んだ船に“世界最速”の称号が送られる。それを得るために。
さあ、来たれ!
最速へのチャレンジャーよ!
そう、誰も追いつくことの出来ない速さを誇った“快速帆船”、ティー・クリッパーと女王の物語を、今から話し始めることにしよう。
***
1861年4月
アメリカ大陸にて、南北戦争が勃発。
「し、し、支店長。大変なことが」
「どうした。我が商会に大変ではない日があったためしが無いがね」
「何を言ってるんですか。ニューイングランドに行ったハインリッヒ船長達が、海賊に捕まったようです」
「おい、海賊だと。何故、今頃に海賊など」
「アメリカが戦争を起こしているからですよ。海上封鎖したんですよ」
そう、アメリカ南北戦争が勃発し、港は海上警備どころでは無かった。
また、イギリスが南軍を支援し、私掠船を派遣している。
それに対し、北軍は海上封鎖を行い、アメリカ東海岸は混沌としていた時代。
そんな際、運悪く、このアインス商会ロッテルダム支店のブリック船は船荷を運んでいたのだ。
買付けは、何ヶ月も前に決まっているのだ。
そうそうキャンセルなど、出来はしない。
「身代金を要求してます。どうしますか……支店長……」
「カネか……」
支店長は、(払うしかないだろう)と判断した。
何故かというと、この時代の企業は、親族ともに働いていることが多い。
そこで、自分の親族を助けないとなると、さらなる混乱を招くことになると思ったからだ。
「やむ無しだ」
「わかりました」
「会長には連絡をしておく」
数日後
「ハブリエル、海賊の正体がわかったぞ」
「支店長!」
「イギリスだ。イギリスが南軍に派遣した私掠船アラバマ号だ」
「なんで、イギリスがオランダの船を?」
「奴らは舐めているのだ。我々をな」
そう、オランダは舐められていた。これだけの商船が行き交うアムステルダムとロッテルダムを有しているにも関わらず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます