第3話:黒刀
冒険者6人組パーティが3mを越す巨大な猪のモンスターと対峙していた。
「“挑発”」
大盾と斧を持つ重騎士がヘイトを稼ぐ。
「今のうちにバフを!」
司令役が二人の魔導師にバフをかけるように指示をする。
重騎士とは別の騎士に護られている魔導師二人が詠唱を始める。
「我が力よ
我が味方に
鉄壁の力を与えよ。
付与魔法 ディフェンスブースト」
一人は今、巨大なモンスターと対峙している重騎士にバフを付与する。
「我が力よ
我が味方に
叡智の結晶と
賢者の知恵を与えよ
付与魔法 マジックハイブースト」
もう一人は司令役の魔導師にバフを与える。
そして、バフをかけられた司令役は詠唱し始める。
「我が力よ
龍の息吹を炎で再現せよ
龍の炎よ燃え盛れ
我が敵を焼き焦がせ
炎魔法 フレイムブレス!」
その一撃で巨大な猪モンスターを倒す。
パチ、パチ
6人の前に刀を携えた少年がゆっくりと手を叩き現れた。
「お見事」
6人はその少年を見ると整列し始めた。
「結果から言うと…お前らは不合格だ」
「どうしてですか?」
「「どうして?!」」
「そんな…わ、我々はデビルボアを倒しました!」
不合格という言葉に5人は反発する。重騎士だけがその言葉に納得していた。
「まずお前ら二人」
少年は魔導師達の護衛役二人を指す。
「お前ら二人は全く周りを見ていない。お前らは目の前のモンスターに集中しすぎだ。俺が何回か殺気と小石を投げたのに反応できていない…」
「そ、そんな…」
「いつ?」
今度は魔導師3人を指す。
「次お前ら3人…タンクと護衛に頼り過ぎだ。特にお前」
魔導師の少女を指す。
「護衛役に密着し過ぎだ。お前は護衛役の動きを邪魔している」
少年は6人から離れてから続きを話す。
「最後に全体だ。お前らパーティは偏りに偏ってる。最悪のパーティだ。
前衛はたった一人、護衛をしなきゃいけない人間が3人もいる。護衛は護衛として役目を果たせてない…
魔法の火力とタンク一人だけがB級でそれ以外はD級以下のパーティだ。
はぁ…これでB級昇格試験を終わる。」
少年はパーティを批評し終えるとその場を去ろうとするが…
「…そんなにS級が偉いのかよ」ボソ
司令役の不満が洩した。
少年はすぐに振り返り、刀を抜く。
司令役はビビり、後ろに後退りする。
「な、私闘は犯罪だぞ!」
重騎士と少年が動きだす。
「やめてくれ!!!」
司令役は転んでしまう。
「“斬波”」
少年が放った刀技は司令役を通り越し、ゴブリンを3体を瞬殺する。
更に、重騎士はもう一体いたゴブリンを斧で切り裂く。
何が起きたかわからない五人は素っ頓狂な声をだす。
「「「「え?」」」」
「B級になりたかったら、これぐらい出来るようになってから試験に挑むんだな」
刀の男は5人に忠告したあとそのまま冒険者ギルドに戻っていく。
(冒険者ギルド)
先程の刀の少年は受付に今回の試験結果を報告していた。
「『黒刀』様、ご苦労様です…その…今回パーティは…?」
「不合格」
受付嬢は「またか」という顔しない様に俯いたり、苦笑いしたりして誤魔化す。
「…は、はい。そのように手続きをさせていただきます…」
ここのギルド長ヘレスティナが「黒刀」と呼ばれた男に話しかける。
「フフ、またかい?」
「あぁ」
「今回のあの坊や達は貴族だったんだけどね」
「貴族も平民も関係ない。戦えるか戦えないかの2つだ。
タンク以外、経験も知識もE級以下だったよ」
「ハッハッハ、辛口だね。まぁ、そのあんたのおかけでうちの支部を拠点としている冒険者は成長して、この2年で光の大陸の9つある支部でトップクラスのギルドになったよ、トーカ」
そう、「黒刀」と呼ばれた少年はホノカで、その偽名トーカだった。
ホノカの容姿はここ2年で大きく変わった。
目元は段々と父であるクーガに似てきた。身長は133cmと小柄な方である。
2年前から変装で黒髪にもしている。
ホノカはS級冒険者「黒刀」と活躍していた。
黒い刀を持っているわけではく、黒髪と光の大陸では珍しい刀で「黒刀」と呼ばれていた。
「あんたが扱いた冒険者達は頭一つ抜けてるからね」
ホノカは今日のような試験官だけでなく冒険者の教官もしていた。
「特にあんたがS級にした「黒剣」、「白氷」、「碧閃」、「銀炎」、「水鈴」の5人は別格だね」
「アイツらの努力が実っただけだ」
「あんたはあの子達に努力の方法を教えたんだ。あんたも賞賛されてしかるべきじゃないかい?
まぁあんたの場合、あの子達以上の活躍しているからね」
複数人の冒険者が二人の会話を遠巻きにして聞いていた。
「やっぱ「黒刀」の旦那はオーラが違うな」
「アレが「黒刀五式」、「白竜天翔」、「碧刃の嵐」のパーティを鍛え上げた伝説の冒険者か…まだ9、10歳くらいの見た目なのに…」
「ゴブリンロードの討伐、上位種ワイバーンの討伐、闇ギルドの壊滅、8つのダンジョン踏破、逸話は増える一方だ」
「他国から依頼がくるみたいだけど「黒刀」さんはペンドラゴンが離れないからな…代わりに教え子の皆さんが依頼を受けて達成してるな…本当だったらそれも「黒刀」さんの功績になっていた筈だからな」
ホノカはこの2年冒険者として大活躍していた。
ホノカ勿論この2年目的を忘れていない。
王国のあらゆる重要施設に入り、父親クーガを陥れた可能性がある人物がブロン公爵という事は掴んだ。しかし、ブロン公爵がクーガの死刑を執行させた記録しかなく、決定的証拠などは見つかっていない。
ユーガに至っては、何の情報も得られていない。孤児院やスラム、ユーガが流されたであろう川に面している小さな農村なども探したが居なかった。
ヘレスティナは一服するとまたニヤニヤしながら話し始める。
「いい加減にどうだい?」
ホノカはこの後の内容を知っているのか嫌そうな顔をする。
「貴方もいい加減諦めたらどうだ?
俺は副ギルド長になんかなるつもりはない」
ホノカは執拗に副ギルド長になるように迫られていた。
「私はあんたしかいないと思ってるよ」
「はぁ、帰る」
これがここ最近のホノカのルーティーンになってしまっていた。
「あ、お待ち。今日はあんたにちゃんとした用事があるんだよ。」
「はぁ…」
ホノカはため息を吐き、帰る脚を止めて受付に戻る。
「なんだ?」
「こっちに来な」
ホノカは応接室に通された。
「S級のあんたに頼みたいのが二つあるんだけど、簡単の方から聞きたい?難しい方から聞きたい?」
彼女をニヤニヤしながら選択を迫る。
(「はぁ、またか…」)
「難しい方から…」
彼女は服の袖から長細い木箱を取り出す。
「あいよ」
彼女は木箱を開き、矢を見せる。
「これどう思う?」
(「“鑑定”」)
呪われた矢
レア度 A
効果 呪詛【回復阻害】
呪詛【耐性劣化】
呪詛【免疫力弱体化】
呪詛【視力低下】
(「かなりの呪詛魔法が付与されているな…」)
「性格の悪い奴が作ってそうな矢だな…」
「流石だな。見ただけで、“鑑定”スキルが無いのに、あんたの鑑定眼には毎回驚かさせられるよ」
ホノカは鑑定スキルがないことになっていた。
「世辞はいい…簡単な方を早く言え」
「そうだね。この矢を射った奴はその場で自害したんだけどね。問題はこれを射られた方がちょいと問題だね…」
(「あぁ…くそ」)
ホノカはこの話の流れをある程度察した。
「実は襲われたのはこの国の第四王子オーレン殿下なんだよ」
(「やっぱり、この婆さんは嫌いだ」)
ホノカはこの2年間ずっと彼女の簡単な方と難しい方を逆にされるという悪戯をされていて辟易していた。
「で?俺にどうしろ?」
ホノカの声色は怒りが含まれいる。
ヘレスティナはそんなの気にしない。
「王子の護衛をして欲しいんだよ」
ホノカは怒りを鎮めて世話になっている彼女の話の続きを聞く。
「はぁ…内容は?」
「第四王子は襲われたところから出れないでいるんだよ。だから今夜に第三公都から王都まで護衛をあんたともう二人A級と一パーティに任せるつもりだよ」
「わかった。それならいい…」
「あともう一つあんたには任務があってね。第四王子は同い年ぐらいの近衛兵がいないんだよ。だからあんたに学園に入学して護衛を…」
「悪いがそれは無しだ」
「安心しな、私の又甥ってことで…」
「言った筈だ…それは無しだ」
ホノカは立ち上がり、信じらない程怖い形相でもう一度と断った。
「わかったよ…今夜の護衛はやってもらうよ?」
「あぁ」
ホノカは応接室から出て、一度自身の隠れ家が帰った。
「やらかしまちまったね…」
彼女は訳ありのホノカのことを知っていたから、今迄上手く対応してきたが、久しぶりにミスをしてしまった。
「相変わらず子供とは思えない顔するね…」
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