トリートメント
「嘘をついてたんですね!」
少し強めに言うと貴女は微笑んで「良く見られたかったのよ」と口にした。
濡れた髪にトリートメントを手ぐしで撫で、出入り口にいる私は「むむっ」と口を曲げる。
「だって、学生時代は何もしてないって言ってたじゃないですか!」
「ふふ、格好つけたかったのよ。良く思われたくて」
「うう」
別に髪に惚れた訳でもなく、貴女そのものに惚れていたから、髪なんて付属品でしかなかったとは思うのだけど、でもひっくるめて好きだったのだから同棲してから判明した事実に、私は、むうと声に出そうとも「あなたが好きだったから」と口にされるとなんとも言えなかった。
濡れガラスのような綺麗な髪。
学生時代から変わらない美しさは、今も健在だ。
むしろ歳を重ねて「女性」の魅力が増したようにも感じる。
「今の私は嫌い?」
艶やかになった髪を見せながら貴女は言う。
「すーきーでーすー!」
私は学生時代より貴女が好きになっている。
とっても、とっても好きで、何もかも受け入れることができそう。
だから「嘘」でも私は「好き」だ。
「ふふ」
貴女は笑ってドライヤーを手に取った。
特有のエンジン音が聞こえ始めたところで私はリビングのソファに寝そべる。
こうやっていれば乾き終えた貴女が、髪を揺らし「のぞいて」くれるだろう。そのさらさらな髪をこぼしながら。そうしたら「綺麗」以外の言葉はなくて、さっき言ったことなんてどうでもいい。
好きでいっぱいになってしまうのだから。
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