第35話『恐竜の居る街③』
古干の前に6人の分身が居る。全員半裸だ。
「こっちに来てくださーい。美味しそうでしょ~」
「いえいえ~私のほうが美味そうですよ~」
「私なんかほら、中学生女子の女体盛りと、踊り食いがいっぺんに楽しめますよ~」
「・・・・・・何のつもりだ。下民」
「いえいえー。私はあなたのような筋骨隆々なイケメンに食われたいだけですよ~」
歌って踊れるオシャレで可愛い私の誘惑を蹴るとは、きっと童貞なのだろう。
渋いイケメンではあるが、こんな態度では友達も作れまい・・・・・・。
「この俺様が貴様の、貧相で、胸の薄い、そのような体躯に欠片でも魅力を感じるとでも思ったか?」
きっと盲目の戦士なのだろう。
気にする必要はない。
敵が言っていることだ。
くだらない。
どうでもいい。
――しかしまあ何となくこいつが生きていることが、赦せなくはなった。
そもそも強がってはいるが、この男は私の誘惑を乗り越えることができない。私を襲わずにはいられない。
古干が持つ武器は、鋭い爪、卓越した筋力、異常に高い耐久、そして何もかもを噛み砕く、強靭な顎――それだけだ。
所詮、恐竜は恐竜。古干の選択肢に遠距離戦闘は存在しない。
私の分身を殺すためには、いつか近づく必要があるのだ。
そして――。
「ちっ・・・・・・せめて、爪で切り裂いて殺してやる。貴様を喰らうなどと言う俺様自身への裏切りは、最も深い罪だ!」
そして、その瞬間はようやくやってきた。が、やってきたと私が認識した瞬間に、分身が2人踏みつぶされていた。
(恐ろしいスピード。圧倒的パワー。とても対処はできない――私だけなら)
分身が誘導する先には、凪音さんの射線がある。
「っはは! やはり貴様など――」
「『地獄の讃美歌』」
「ぐっ、ああああああああ!」
古干の周りに空気の振動が見えた。見えただけな気もする。
おそらくは、クリーンヒットしたのだろう。
「ぐぅうっ・・・・・・! 『古代黄金期』・・・ぐはっあっ・・・・【プテ・・・ラノ、・・・・ドン】!」
古干は一瞬で巨大な鳥のような見た目に変わり、天空へ飛び立った。
これは、古代に空を支配した怪鳥――プテラノドン。
「はあっはあっ――ふう。今のは、苦しかったぞ、下民め。だが――これで終わりだ。貴様らの攻撃は俺様には届かず、逆に俺様は俺様の好きなタイミングで、好きな行動がとれる。そして俺様が空中から、爪による攻撃が届く距離まで動く時間は、刹那に等しい――!」
ペラペラとそんなことをしゃべらなくてもいいのに・・・・・・プテラノドンぐらいの対策は最初から織り込み済みだ。なんなら、私たちが知らない、聴覚が極端に退化している恐竜などを使ってこなくてよかった。
昔煙託さんとの戦いで披露した分身空中移動。
あれの弱点は一定以上のスピードは見込めない事。この状況であの技を使っても古干に蹴散らされるだけだろう。
ならば違う空中移動術だ。
「12人。分身ミサイル」
1人の分身が、二人の分身を両手に持ち、ハンマー投げの要領で古干に投げる。
そして、防御も受け身も何も考えずに、分身は一定の高度に達した時点で、爆発させる。
「はっ! この程度の精度で、この程度の速度で、当たると思ったか!? 下民の考える事はたかが知れている。下手な鉄砲にも程があるぞ!」
そう。砲丸ドッヂボールで鍛えたとはいえ、投げ方も、投げる物も違う。所詮は下手な鉄砲だ。
しかしそれを何度も繰り返し続ければ、いつかは罠に引っ掛かる。
「な、これは・・・・・・!」
「何人も何人も、爆発し続けているんです。一つ一つ真面目に末路なんて見てられませんよね」
爆発していない分身が、自分の背中の裏に居ることを気づくことは難しかろう。
「離れろ下民! 俺様からっ! 離れろ!」
羽を振り回し、暴れて、私の分身を振り落とそうとしているがもう遅い。
「ボカーン」
古干の右翼が爆発した。
怪鳥が体勢を崩して、墜落する。
「まだ、まだだぁ・・・・・・!」
「いえ。もう終わりです。心お願い!」
「わかってるっつーの。あ、あー・・・・・・『地獄の讃美歌』」
凪音さんの持つギターコードが震えるのと同時に、古干の頭部周りの空気が震え、歪み、溶けて、壊れた。
「ガハァツ」
「詰みです」
私は最後の攻撃を仕掛ける。
分身五人を使った、自爆特攻。
翼が削られ、凪音さんの能力で意識も朦朧としている、弱った相手にとってそれは、オーバーパワーを超えたオーバーパワーだ――それで情け容赦をかけるようなやつだったら、こんな所には来ていない。
「ボカーン」
古干の体の周りを焔が包んだ。
ふと、私は思った。
恐竜映画にも、爆発オチはありふれているのだろうか。
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