第33話『恐竜の居る街』
私はビル街に降り立つ。が、そこはとてもまともとは言えない地形だった。
コンクリートが剥がれ、血と瓦礫で埋め尽くされた辛うじて車道の原型が残るだけの場所。
「一体あの中の誰が道路を滅茶苦茶にしたんだろ。かなり動きづらい・・・・・・」
うんしょ、うんしょと瓦礫を避けて、私は少しづつ歩く。
私には遠隔の探査能力などの便利スキルはない。分身の死角が共有されたりなどの蟻がちな能力は持っていない。
なので敵を殺すために、私は足を使う。
まあ、こそこそと縮こまりながら、動いている相手を見つけるだけだが。
「まったく――コソコソするのは私の柄ではないのですが。戦闘中の小細工はそりゃあやりますけど、あくまで華麗に。マジシャンのような美しさを出したいものなのですが」
私は適当に1㎞ぐらいうろうろしたところ・・・・・・居た。
その男は図書館付属の小さな公園に居た。
黄色いコートを身に纏っている、鋭いまなざしを持ついかつい体躯の青年。しかしどこか、警戒心があるとはとても思えない面だ。
(こんなに無造作に歩いているってことは何か身を守るすべがあるという事。おそらくはカウンター系の能力、うかつな攻撃は危険――まあ、そのリスクを無視できるのが私の能力の優れているところ)
「三人」
私は分身を三体生み出し青年にけしかける。
分身が死んでも本体である私にダメージはないし、『殺意を持って攻撃した相手に影響を及ぼす』ような能力でも、私は命令しただけなので何も問題は起きない。
何も起きずに倒せたら万々歳だ。私の手札がばれることが欠点だが、ぶっちゃけ私の能力とプレイングはばれたからと言ってどうにかなるものでもないし。
「はっはっは! 魔王軍よこの俺様の前に平伏しろ! むっ! 貴様らは――」
私の分身には気づいたようだが、もう遅い。修行で強くなった私の接近速度は、ウイルスが感染するが如くスピードで打撃を――。
「『
青年がいきなり消え、現れた影は、私の人生の中で見たことのある物で例えるなら、きっと煙託さんの『噴火鰻』が最も近いのだろう。
思えばそれは、人間の空想がそのままの形で出力されている、ひょうたんから駒と言うか、事実は小説よりも奇なりと言うか、一種の奇跡と言える存在なのかもしれない。
つまり何が言いたいかと言うと、恐竜と言うのは凄いなあと言う話である。
最もすごいからと言って、ティラノサウルスが私の分身を全員食い千切っている姿を見て喜ぶほどのマニアではないが。
ティラノサウルスの姿に変わった青年は言う。
「打ち震えろ。恐れろ。貴様は運が良い。この俺様、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます