第25話『攻略!バンドマンとのドキドキデート!』
まず私が凪音心さんのプロファイリングをすることにした。
いつもだったらそんな無粋な、友達に会う前に友達のことを強いラベルような真似はしないが、今回は別だ。
精神が不安定でいつ何をしてしまうか、わかったものじゃない凪音さんと友達になるためには一切地雷を踏まないように接し、円滑に友達になる必要がある。
好きな物、過去、そのすべてを知り尽くして、凪音さんを攻略する。
凪音心。女性。20歳。好きなものは音楽。好きな食べ物は酒。嫌いな食べ物は乳製品。
K県の上流家庭で生まれ、小中一貫のお嬢様学校卒業ののち、私立の名門高校に進学。
凪音さん16歳の時、高校で出会った同級生3人と一緒にロックバンド『マッドベリー』を結成。自身のポジションはボーカル兼ギター。
高い実力から徐々に注目を集め、全盛期には動画サイトのチャンネル登録者100万人を突破。メンバー間の仲も良好。姉妹のようだったと同級生からは語られている。
プロデビューの話もあちこちから出て、正に順風満帆。バンドの理想形ともいえるような状況だった――。
だが凪音さんが18歳の時。高校生としての最後のライブの日事件は起きる。
一〇・二三魔王軍テロ。
ラストライブの途中に魔王軍の大規模テロが起きた。
ライブは中断。客と一緒に凪音さんたちも避難した。
あちらこちらで英雄省と魔王軍の戦闘が行われ火花が散る中、一般市民は戦闘を避けて地下トンネルを通り、なんとか平和な所を目指して走っていたのだが――
通っていた地下トンネルが英雄省の戦闘の余波で崩落した。
大規模に真上から落ちてきたため、逃げていた走っていた民間人の3割が死んだと言う。この崩落で凪音さんのバンドメンバーも2人死んだ。
凪音さん自身は死にこそしなかったが、足を折って動けなくなった。
たまたま無傷だった最後のバンドメンバーが凪音さんを背負い、歩みを始めたそうだが、結局魔王軍を追う英雄省の攻撃に巻き込まれ、最後のバンドメンバーも死んでしまったらしい。
足の骨を折り、動けようはずもない凪音さんが生き残れた理由はただの偶然、ただの奇跡とのことだ。
全治2か月。凪音さんの骨折は非常に軽いものだった。
バンドメンバーを攻撃に巻き込んだ英雄省勤務の男は業務過失致死で100万円の罰金で決着した。
そして2ヶ月後、骨折が完治した凪音さんは魔王軍の門戸を叩いた。
理由は『地獄に行くため』と『英雄省に報復がしたいから』だと言う。
ちなみにこの情報の元は、某ペドコン殺人鬼から教わった情報が7割、プロフィール欄が2割、胡散臭いネットニュースが1割である。
調べられる情報を集められるだけ集めてみたが――。
「私そっくり」
仲間を理不尽に失い、絶望して、復讐を願っている。今の私とそっくりだ。
私と違うのは新しい世界で得た,新しい大事な人すらも凪音さんは失っているという点だ。
きっと寂しいだろう。苦しいだろう。絶望しているだろう。
生きる気力すら失っているかもしれない。
それはつまり、私の取り入る隙があるという事だ。
私が彼女を支え、開いた穴を埋めてあげなければならない。
それが友達の煙託さんの望みであり、私の望みなのだから。
「凪音さーん。生きていますかー? 首吊ったりしてませーん?」
現在午前10時。私はトンカントンカンと午前7時から3時間もの間、凪音さんの部屋を叩き続けている。
留守ならば靴が無くなっているはずだしなによりパソコンのデータに残る。
鍵も掛かっているし、この中にいるはずだが――。
「まさか死んでいませんよねー? そしたら今すぐ蘇生させに行かなければいかないのですがー」
死んでいたら困る。そんなことになっていたら私が友達になれないし、友達の遺言も叶えられない。
「大丈夫ですかー? 死んで――」
「うるっせえ!!」
扉を開けて凪音さんが飛び出してきた。
「生きていたんですね。良かったです」
目にクマができているし、明らかにやつれてこそいるが、服装とメイクは完全な形になっている。綺麗な体型が強調されて、とても綺麗である。同性から見てもすごく魅力的だ。
「いままで寝ていた割にはちゃんとメイクをしていますが――もしかして!」
私と楽しくデートをするために!
「私がメイクしているのは、お前の思うもしかしてじゃねーよ! 一終にいの弔い合戦に、メイクしないわけにいかないだろ」
「! それはいけません!」
私の獲物だ。渡すわけにはいかない。
それにそれを抜いても目に隈ができているフラフラとした人では、いくらなんでも無理だ。
いくら相手が劣等な猿知恵を用いて煙託さんの敵へのハードルを下から潜り抜け偶然にも勝利ともいえない勝利を手にした劣等偽物ヒーローとはいえ、今のフラフラな凪音さんではギリギリ負けてしまう。
「じゃあ今ここで、私と殺し合いするかぁ? 生き残った方が欲を通すってことでさあ」
凪音さんが挑発をしてきた。
不味い。さすがに身内で戦うのは煙託さんとの一回で十分だ。私は肉体言語が好きではない。父もどちらかと言えばインテリヤクザだったし。
「そうじゃなくて・・・・・・えーとつまり――」
考えろ考えろ。この場で最適な一手を考えろ――。
そして私は言う。
「私と、夜のデートしません?」
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