ein anderer

赤木すみれ

第1話 不気味なクラス

僕(大塚優)の母親は3ヶ月前に亡くなった。

僕が幼稚園年長の頃である。

母は家で突然死した。

最初はショックで心因性失声症になった。

その後、なんとか話せるようになったがストレスで今回は自然気胸を起こして入院になった。

慌ただしい都会よりものどかな自然が広がる田舎である母の故郷に帰ったほうがリラックスできるということで、中学3年生に進級することを機に、都内で大学病院に勤める父と別れて祖父母の家に行くことになった。



まず2週間は地元の病院で生活することになったため、転校先の学校の始業式には間に合わなかった。

入院中、祖母は僕の世話をしてくれた。洗濯した服を持ってきてくれたり、暇にならないようにと本を買ってきてくれたり。

面会が始まる朝10時にきて、夜の17時という7時間の面会時間の間、ずっと一緒にいてくれて帰ってしまう時は必ず、温かい言葉をかけてくれる。


「そんじゃ、帰るね。何か欲しいものはない?」

「大丈夫だよ。」

「困ったらなんでも言ってね。じゃ、おやすみなさい。」


こんな感じだ。


ある日。僕はいつも通り祖母と会話していた。

「そうそう、優ちゃん。1年前から怜おばさんが帰ってきてたの。」

怜叔母さんは僕の母の妹で、母とは14歳差である。どうやら、1年前から怜叔母さんは僕の祖父母と生活しているようだ。

「怜叔母さんが土曜の午後、来るらしいよ。怜叔母さんと会った事あったっけ?」

「あー、お母さんの葬式の時に1度だけ。」

「そやったっけ。怜も何かと忙しそうだったし。1度しかあってなかったか」

祖母の目が少し潤んでいるように見えた。

母ともう少しいたかった。それは遺族全員が思っている事だろう。


土曜日、 祖母が言っていた通り怜叔母さんが来た。

「久しぶり、優くん。」

「お久しぶりです。」

記憶とは違って、綺麗な大人になっていた。黒髪のロングヘアは白い肌とよくあっていて美しかった。

「いつぶりかな」

「母の葬式以来だと。」

「姉さんが亡くなってもう3ヶ月か。早いね。」

怜おばさんは少し悲しそうな表情を浮かべていった。

「ついに来週から学校ね。私も今、学校に勤めているの。」

「怜叔母さんが?」

「普通に怜さんでいいよ。まあ、でも学校の時は雨宮先生って呼んで欲しいな。」

「それは、勿論です。もしかして音楽の教員ですか?」

「そう。てか、敬語もプライベートの時は大丈夫だよ。」

怜叔母さんは確か音大出身だった気がする。ピアノとヴァイオリン、どっちもできるんだったかな。

とにかくすごいというのは母から聞いていた。

「北中はどんな感じなんですか?」

「んー、校則はそこまで厳しくないんだけど、訳わからないルールは多いわ。でも、それは生活していれば慣れてくるし、大丈夫だと思う。まあ、3年C組でなければ。」



面会終了時間になり、怜さんと祖母は帰っていった。

僕の頭は一つの単語でいっぱいだった。

怜さんが残した言葉。

「まあ、3年C組でなければ。」

3年C組だからなんだというのだろうか。もしかしたら、3年C組は変な人が多いのかな。いじめがたくさんあるクラスなのかな。

ずっと引っかかっていた。が、誰もいない病室でそんなことを考えていたところで何にもわからなかった。

あれこれ考えているうちに僕は寝てしまった。



いよいよ明日から学校。

病院を退院して僕は祖父母と怜さんが住む母の実家に行った。

一軒家で、母屋と離れ2つで構成されていた。

一つの離れは既に怜さんの生活スペースになっているようだった。

「優はあっちの離れを使っていいよ。」

そう、祖母に言われた。

かつては母が使っていたらしい。

なぜか安心感がある。

一息ついて僕は父から送られてきた荷物を部屋に並べていった。


僕は楽しい学校生活を送れるだろうと思っていた、次の日に信じられない現実を突きつけられるとは知らずに。



次の日、学校に行くと担任の先生が出迎えてくれた。

東雲という明るそうな男性教員で、担当教科は理科らしい。

学校について簡単に説明した後、僕を教室に連れていってくれたが僕はその時ぎくりとした。

なんと先生が案内した教室は「3年C組」だったからだ。

昨日、怜さんが言っていた「3年C組」。怖かったが、どんなクラスかを東雲先生に聞く勇気はない。聞いたらいけない気がした。

3年C組の教室の一番後ろの右から2番目に座った。

なぜか右隣の席と無駄に離れている。そしてもっとおかしいことに右隣の席は他の席と比べて少し年季が入っているように見えた。

と言っても、席を並べていたら自然と席同士が離れることだってあり得るし、使っている人によっては席が汚れやすいことだってあるはずだ。もしかしたら僕の右隣の人は不潔な人なのかもしれない。

落ち着かない。今にも何かが起きるのではないかとビクビクしている。

あれこれ考えていると誰かが近づいてきた。

男女2人で、女子の方は赤いメガネをかけていかにも真面目そうな雰囲気を出していた。

男子はメガネをかけていなかったが、肌が白く顔は整っていた。

「大塚くんですか?」

「はい。」

唐突に自分の名前を言われてびっくりした。

「学級委員の小島です。」

どうやら赤メガネの女子は小島というようだ。真面目な顔立ちできっとクラスでもリーダー的存在な気がした。

「同じく学級委員の岡です。このクラスの事情は誰かから聞きましたか?」

事情とはきっと怜さんが言っていたことだろう。

「あ、いや、ちょっとこの学校にちょっと注意しないといけないクラスがあるとしか聞いてないです。」

「その注意しないといけないというクラスがこの3年C組なんです。」

小島ははっきりと言った。小島の顔はさっきよりも一層真剣になっていた。

「3年C組には気をつけないといけないことがあります。ですがC組の私たちは口にはしていけないのです。とにかく、大塚くんは周りをよく観察して、周りの動きにしたがってください。」

そう言って2人は去っていった。

よく周りを観察して、周りの動きに従う、、か。

最初はよくわからなかった。今のところは普通のクラスだし、問題もなさそうだったから。


しかし、この考えは30分もしないうちに変わった。

約10分後に朝のホームルームが始まった。

僕の右隣の席の人はいなかった。最初は欠席か、遅刻でもしてくるのだろうと思った。

ホームルーム中に廊下から誰かが無言で教室に入ってきて右の席に座ったのだった。

気になって右を見るとそこには1人の女子が座っていた。

席の汚れ具合から不良じみた男子生徒かと思っていたが予想は覆され、黒髪セミロングの女子だった。顔ははっきりとは見えなかったが肌は白かった。

不自然なことに誰も彼女が入ってきたことに反応しない。

普通なら遅刻してきても「おはようございます」ぐらいは言いそうだし、来た側も「遅れてすみません」とか言うはずだ。なのに、今この教室では誰もそのような行動をしない。

彼女が入ってきてもみんなは彼女を見ることすらしない。先生も含めて。

これが3年C組なのであろうか。

怜さんが言った通り、もしかしたら大いに注意するべきなのかもしれない。


ホームルーム後、左隣の席の男子から話しかけられた。

「名前教えてよ。」

「あ、大塚優って言います。」

「優?いい名前してるじゃん。僕は三木碧。よろしく。」

いかにも明るそうな少年だった。

三木の元に違う男子が来た。

「あ、転入生か。」

三木の隣にいる男子は僕の方を見ていった。

三木は気を利かせて彼を紹介してくれた。

「こいつは一ノ瀬湊。中学3年間同じクラスのご近所さん。」

「よろしく。」

一ノ瀬は爽やかな顔でひとこと言った。

「大塚って言います。よろしくお願いします。」


なんだ、みんな変な人というわけではなさそうだ。

だが、やはり隣の席の女子は一体何者なのかが気になる。


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